「真夏野」丘野こ鳩

2021年12月20日

初めに、ダブルベッドを二つ買った
眠るときだけは ほんとうに、一人でなければ
ときどき
二人でいることもかなわないだろう
一回転して腕を放り出さなければ、 届かないところにいるのが
ぴったりの距離の わたしたちだ

訪問看護がくる 訪問介護がくる むかしのお客がくる 身寄りのない人からの同情と甘えがくる 上の階の住人の 駆けたり話す声 宅配人の声 甥の声 何かを探すおばあちゃんの声 義父の咳 大きなテレビの音 おもての往来の 自転車と、自動車と、救急車と、話し声と、
中断される映画、中断される料理、中断される仕事、中断される思考、中断される眠り、中断される入浴、中断される掃除、中断される物干し、中断される重心確認、あいまいな気分の読みとり、
うごく 溜まり、捨てられる物が、
部屋のあちこちに通過するのを目に映し、
とらえない
うごく 鳴り響き、止んだものが、
カーテンやシーツや睫毛とシャツとを ふるわして、とらえられず
今朝 どの時間のうえで
あなたに挨拶をしたのか
今朝 だれの時間のうえで
手を合わせたのか

眠る
ときだけはほんとうに
一人でなければ
居ることは
かなわないだろう

一回転して、放り出さなければ
だれにも届かないところで
呼吸を思いだすのが
ぴったりの、わたしたち には

「呼ばれる 」「呼ばれた」「呼んでる」「呼んだ 気がした」
I hate
we love U
We hate
I love U

だいの大人たちが、ままならなく、おぼつかなく、寄り集まって、口々に、行き交っては、それぞれを、中断し合う、否応なしに、
床をふく 車をだす たべごたえのないやわらかな煮物をこさえ タイルを磨く
定かでない人から 30年前の布おむつを預かる
定かでない人から しんだ息子の服をもらう
定かでない人に 花を手向ける
定かでない人に ありがとうございます

でもねえ
おおむね まんぞくなのだよ
うまいことも まずいことにも
いやな夢を、みること
かたちだけの誕生日を、いわうこと
花を買って、かえること
緑地を選んで、あるくこと
そのどれもが 長い間
誰にも打ちあけたことのない ところまで
まるでわたしに ぴったりの出来事ばかりが
ふっては たちあがってくる
ずっと昔から 決まっていたみたいに

そうかい と天井がいう
そうかも とわたしがいう
どこかの時間のうえで
おやすみ する
だれかの時間のうえで
バイバイ する

初めに、ダブルベッドを二つ買った
一回転して、放りだす
またあした 起きるここに