「f」丘野こ鳩

2021年10月16日

 f

真っ暗な部屋で
ベッドに伏せると
なんで天井は水面になるのだろ
床はゆらいでゆくのだろ
雨だけれど
いつまでも雨の からだだけれど

だれもいないことがうらやましい
わたしの部屋は 比べるべくもなく、影だらけで
影だらけの水のなかで
ふるえながら通りすぎる
まぼろしの光や、ぬるい毛布や、浮かんでゆく舌や、
数えきれない一日 一日じゅうがしんでゆく わたしの部屋よ

目が開くと
岸壁を素手でよじ登るように 着替えをして
あさ あるいてゆく
駅までが くるしい
ホームは息が切れる
電車の音が消える

地下鉄のトンネルに
置いていくの、声を
音楽と おはなしを
わすれるの じぶんで
ニンゲンの声
いとしい 音階を
がたがた がたがた
切断、される、
めざめと ねむりが
曇天の浅瀬で
溺れはじめて

どのように息を
いくらでも
諸手を

真っ暗な部屋で
抱きしめてほしい

とりどりの心をひとつかみにして
めちゃくちゃに押し込まれたい
そのためにうまれた といって
泣きたいのだ

ひとつだけのからだで
ひとところのこころを












丘野こ鳩