お父さんのバスタオルより 「父と娘」 河野宏子

2022年05月13日


偏屈やし偏食がひどいしタバコ臭いから
どんなにハンサムでも 楽器や歌が上手でも
お父さんみたいな人とは結婚しいへん、
思春期のわたしはそう決めた

でも気づいたら
好きになるのはバンドをやってる人ばかりだった
おまけに偏屈が多かった
ハンサムには はなから相手にされることがなかった

最初の結婚は25歳 
相手の親との二世帯同居
一年暮しただけで身も心もボロボロになり
実家に一旦帰された

体裁が悪いからと渋々迎えにきた元夫に
お父さんは
「なんできみは、
この子の味方をしてやってくれへんかったんや?」
とだけ言った

元夫は怒鳴り散らし
一人で帰っていった

「あれで良かったんかなぁ、ごめんやで」
そう言ったあと
ずっと黙ってタバコを吸っていた
あの時のお父さんの横顔は
逆光みたいになってて思い出せない

二度目の結婚生活は上手くいってる
夫は好き嫌いなく食べ タバコの匂いもしない
まぁるいお腹にウクレレをのせて爪弾く姿は
着ぐるみのようにかわらしい
お父さんには ちっとも似ていない

なのにお父さんは
「宏子はやっぱり楽器弾く男が好きなんやなぁ」
と言っていたと 母から聞いた

ほんと言うと
夫は時々偏屈だ
けれどいつでも
わたしの味方だ















【詩群】『お父さんのバスタオル』
河野宏子NOTE 『お父さんのバスタオル』より


河野宏子