「とある夜」ヒラノ

2024年05月02日

必然の最小単位は偶然
偶然が折り重なって、繋がって必然となる

そう思ってる
そう思ってた

当時、お付き合いしていた彼女は気の強い子で、でも仲は良かった
と、言うか俺が一方的に好きだったのだと思う

ケンカしては仲直りして、手を繋いでお出かけして、そして一緒に寝て

ケンカしては仲直りして、手を繋いでお出かけして、そして一緒に寝る


なのにまたケンカして…
それの繰り返し

ある日、理不尽な怒り方をされ頭がパンクしそうになった
「またこのパターンかよ?!」

「もういい、話さないし会わないし連絡もしない!」

「そうしたらいいじゃん!!」

そうするよ、本当に嫌なんだよ
ケンカするのが、ね

一週間は何も連絡しなかった
とは言え、別れたいわけでも無い
だが、腹の虫が収まらなかった
とにかく腹の虫ってのが大暴れしていた

週末の渋谷、東急そばのいつものサンクス前に先輩方や友人と集合

先輩が俺に聞く
「お前、仲良くやってるの?」
先輩とは付き合いも長いので俺と彼女のケンカを何度か見ている

現状を説明した、連絡を絶っていると
「仲良くしろよ?」

そりゃ俺だって仲良くしたいんだって…

その日の晩のパーティーは日本のDJの先駆けとデトロイトから世界屈指のDJが廻すと言うことで俺らは期待を胸に集まった

サンクス前から歩いて15分程度の場所に地下1階、地上2階という有名な人気店がある

ここで不思議な事が起きる
皆んなで店に向かっている道中に、なぜかまったく見知らぬ2名が増えていた、俺らは誰もその2名と一切の面識は無い
なぜ合流したのか?今もその理由は思い出せない
でも増えていた

東急の左脇の坂道を皆で歩きながらお互いの話をしていると、これも不思議な話で、その2人はさっき初めて会って意気投合したばかりだと言う、その勢いで俺らと合流したと

1人はよく喋る奴で、
「あの店だったら顔パスだから、俺の名前出せばお前ら今日タダにしてやるよ!」と、言う
威勢の良い奴だが、

マジかよ、超ラッキーじゃん!!
そんな凄い奴なんだ…


もう一人はまったく逆の雰囲気で、ニコニコしながら皆んなの会話に相槌を打つばかりのおとなしい性格だった

坂を登り、さらに左に曲がりもう1つの坂を登る

遊んだ事がある奴はわかるでしょ?一本裏のあそこの店

着きました

本来ならば入場に4千円かかったのだと思う

さっき合流したばかりの威勢の良い奴が俺らの先頭に立って
「任せておけよ!」とエントランスへと皆んなで入って行った

「おう、オレ!お疲れぇー」
「あのさ、今日7人いける?」


「どちら様ですか?」
スタッフからの衝撃の一言

そう、こいつウソつきだったの
今思えば地方から出て来て東京のルールを知らなかったのだと思う

テキーラを飲む前にすでに顔は真っ赤になっている

俺らはすぐ察する、ダメだこいつハッタリ野郎だわ、と

するとさっきのおとなしい方がスタッフに一声二声かけると…

「では、皆さんどうぞ!」
とエントランスで金を払わずに全員店内に入れてもらえた

どういうこと?この人だれ?何者?
ウソつきが墜落する瞬間を俺らが目撃し、全員でため息を吐き出したその矢先、

誰この人?スゲぇ…
だってアットホームな店じゃないのよ?セキュリティだっているし、そもそもあの立地で、あの店でそれはありえないの

俺らはソワソワしだす、この人は得体が知れないと

まぁ、とにかく皆、入店出来た
そしてウソつきカッペは下を向いたままで以後、俺らと目を合わす事は無かった

バーカウンターで酒を買いダンスフロアに向かう
低音が腹をくすぐる

だが、何かが変だ…
期待していた音と違う、まずジャンルが違う
ウソでしょ、もっと速い曲かけてくれるんじゃなかったの?キックもスネアも足りないよ?

「えー?あの人こんなレコードもかけるの?」

DJの選曲の幅はそのまま技術と能力と経験なんだけど、今日はさ…
俺の知っているあんたでいてくれよ?!

もう、俺はふてくされちゃうわけ、思っていたのと全然ちがう!って

こんな時は酒だ、酒飲も…
広い店内で仲間ともとっくにはぐれている

バーカウンターに列んだ、店は客でパンパンで何分か待たされる
俺の番が来た

オーダーをする

不意に後ろから肩を叩かれた
「え?誰?」

そこにいたのはケンカ中の彼女だった
俺は動揺した

「なんで?なんでここにいるの?」

「あなたは絶対、今日ここに来るとわかっていたから…」

それが一週間ぶりの会話


買ったばかりの酒に口はつけづ、彼女の手を握って店の外に飛び出した

彼女は俺の音楽的嗜好をほぼ熟知しており、仲直りのためにわざわざ深夜、1人で渋谷に来てくれたのだった

「あれ、ごめんね?」
「いいよ!」

「あれもごめんね?」
「いいよ!」

「それはもういいよ!」
「ごめんね…」


握った右手からもう手汗がにじんでいる
離すわけないでしょ?だって俺の方が好きなんだもん

坂を下り、曲がってまた坂を下り、抱きしめ合ったり

こんな夜ってある?
あったんだよ

あの大人数の中からよく俺を見つけてくれたなって
こんな夜に謝るタイミングを作ってくれたんだって

夜、素敵な夜
嘘みたいな夜

大好き、愛してる


冒頭に書きました

必然の最小単位は偶然
偶然が折り重なって、繋がって必然となる

これ、誤りのようです

必然の最小単位は奇跡です
そうであって欲しい

誰かの好きと誰かの好きが結ばれる時、それは奇跡なのかな?
それが折り重なると必然になる、のかな?そうであって欲しい


あとね、これ大切な話なんだけど、俺が過去お付き合いした女性は皆んな美人でした

え、その子?
当時は東京タワーのエレベーターガールだよ

いまは何をしているんだろう…
夜、今も健康である事を祈っています。





ヒラノ