「知らない女」春野たんぽぽ

2022年03月10日

女が隣を歩いている
私の歩幅に合わせて
少し早歩きで
私の隣を歩いている

私はこの女を知らない
女は私の連れのように時折
私に笑みを見せ
私の隣を歩く

女は勤務先の会社の物らしい
社員証を首からぶら下げ
緑のスプリングコートに
黒のスラックスを穿いている
ベビーピンクのヒールは
右足だけ脱げ
白い足が剥き出しになっている
本来足にへばりついているはずの
ベージュのストッキングは
破れて土が付き
最早その任務を放棄している

足がほつれ始める
この速度で歩くのも限界だ

走り出すことも立ち止まることも
してはいけない
私はこの女を知らないのだから







春野たんぽぽ