「周辺シ 6」クヮン・アイ・ユウ

2023年05月25日
「食べたいは生きたいだったのか」


その屋根には五メートルを越すアンテナが取り付けられていて
既にほうぼうが崩れている建物と濃淡を示すように丁寧に取り付けられた部品が
屹立するのを支えていた
自立した通信手段を持ち
数百キロ先に居る相手と言葉を交わす
伝えたいという想い 聴きたいという想い

その人の名前を呼び続ける

連呼する
周囲にどう思われようと平気で
じゃあ一体今までのは何だったんだ
つまり人の目を気にして申し訳程度のあの声たちは
そう思われるのはもっと後で
無意味であるのに
名前を呼んでいた

このことを友に話したら
いつか交わした言葉が返って来た
私の中にその人が居るから名前を呼ぶのだ
例えもう居なくても
まだその人と生きている私の為にも呼び続ける必要があった
それが生きていくことなのかも知れない
その人の前で
葛藤したり馬鹿なフリをしたり
疑ったり でもやっぱり信じようと決める
あの日々の私はもう帰って来ない
それが人との別れである
その人が居なくなることが我が事のように悲しいのは 我が事だったのだ
初めから

よく食べたい物を聞いた
食べたいは生きたいだったのか
食べるがただの手段でしかなかったとしたら カロリーだけ取れればいい
だからその人にとってはそうではなかったのかも知れない
食べるは手段であり目的でもあった
生きる為に必要で 生きることだった
だとしたら生きたかったのか
それはわからない
遺された者には事実に主観的な意味づけを行うことが出来る
そうして死者の存在でさえも力に換えて生きていく
助けられて 生きていく

彼の好きな食べ物を覚えている




クヮン・アイ・ユウ