「T-theaterのこと 第三部 活動後期(4)」奥主榮

2023年12月26日

最後の公演「百万燭の電飾」


※ とほほ、前回の原稿で、またしても誤字をやらかしていたのを妻に指摘された。この部分である。


中学生の頃だったと思うが、新聞の文化欄の記事で、こんな話を読んだことがある。これらの抒情詩は朗読によって人々に伝えられたそうである。長い物語を声によって聞かせるために、名前だけでは登場人物を覚えきれなくなる。だから、個々の人物にそれぞれの「枕詞」とでもいうべき前置きの説明を韻文で付し、聴衆に印象付けたというのである。そんなことも頭に残っている。


※ 当然、枕詞の必要な抒情詩など存在しない。「これらの抒情詩」は、「これらの叙事詩」の誤表記である。平身低頭して、誤植だらけの原稿をお詫びするしかない。

※ さて、本文である。



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       四 最後の公演「百万燭の電飾」

 最後の公演のタイトルは、比較的早い時期から決まっていた。ただ、なかなか実現には至らず、毎年「来年こそやります」と先送りにしていった。十代の頃に耳にした、「ほら吹きクレイ」という言葉を思い出し、自分で自分を「ほら吹き榮」と自嘲した。
 大村は、自分の企画をいくつも抱えていった。白糸もまた、あちこちに活動の場所を得ていた。他のメンバーの多くも、オープンマイクなどを中心に、それぞれに活動の場所を開拓していった。白糸は井之頭公演のステージ(「ガラスの仮面」の中で、北島マヤが立った舞台)での朗読を、穂村弘によって絶賛されていた。大村は、毎年新春に「ひかせ王」という企画や、その他にも「梵天夜」という企画をスタートさせた。
 僕は、自分が「詩の朗読」ということにこだわり、舞台を維持していたことの意味を疑い始めていた。
「居場所がなければ寄り添う場所を求め、一度見い出せば、そこは足蹴にする。」失礼な言い方をすれば、そうした気持ちを、むしろこの連載では名を出さなかった参加者の一部に対して感じていた僕は、疲弊しきっていた。
「この方は、一体何をしたくて表現活動をされているのだろう」と疑問を抱くことが、多々あった。
「自分を認められたい」という気持ちは、とても真っ当なものである。この切実な気持ちは、けして否定されてはならない。ただ、僕は練習期間が最低でも一年であった団体で「その期間を経ても、劣化しない作品を提出してください」と常に口にしていた。
 時間を割き、交通費を払って聴きにいらした方々に対する、それが僕のできる精一杯のことであった。
 けれども、それが裏切られていく状況の中で、T-theaterを維持することが、苦痛になっていた。けれど、だからといって無責任に終わりにしたくなかった。

 けれども、この公演をきっかけに、高橋悠之介さんや春井環二さんらという素晴らしい表現者とご一緒に舞台を実現することができた。けして、媚びることのない、強い芯を抱いた方々なのである。
 お二人を初めとして、最終公演の参加者の方々は、それぞれに自分の矜持を保つ表現者であった。

 この公演は、最後まで煮詰めきれなかった第三回公演「いったきり温泉」という側面があった。あちこちに不満は残るけれど、僕にとっては、それまでの活動の集大成でもあった。最後の公演にするということは、実現直前まで口にしなかった。

 舞台の冒頭で春井によって朗読される「かじりか覗き見たけのパン」という僕の作品は、僕がノートに書いていたメモを、大村夫妻の家で開かれたホームパーティの際に覗き見たメンバーが、「これ、舞台でやろうよ」と言ってくれて実現した作品である。ただのメモでしかなかったので、とても嬉しかった。「電燈のスイッチを引っぱったら落ちてくる洗面器」といった、ドリフの舞台のようなギャグも、出演者たちは理解して、実現してくださった。
 世界から、関節を外したい。しかも、極めて真面目な態度で。
 そうした僕の意思を反映してくださったスタッフのおかげで、最終公演にふさわしい舞台になったと思っている。
「最後の公演だから」と、盛大に焚いたスモークが、「咽喉を直撃しました」というご近所さんの知り合いの感想を前にしては。ひたすら謝るしかなかった。

 八王子のギャラリー・カフェritmosでこんな話を聞いた。
 とてもお洒落に作られたフライヤーなどが、老眼などの方々を排除することがある。僕も愛読していた、とてもファッショナブルな雑誌の名前も挙がった。
 僕が盛大に焚いたスモークなど、迷惑なものでしかなかったのだろう。

 僕は、誰に何を伝えたくて(あるいは伝えたくなくて)表現をしているのだろう、と思った。
 あるいは、何もないからこそ、平然と作品の受け手という存在を無視したことをやっているのかなと。

 ちなみに、この最終公演に参加した春井環二は、現在「緊急ルーレット」という劇団の脚本を手掛けている。何度か拝見させて頂いた舞台は、非常に素晴らしいものであった。
2023年 9月 14日 第三部完結




奥主榮