「言わないホテル」尾内甲太郎
朝は自分の椅子に座り
自分で挽いた珈琲を飲みながら
海際に建つ言わないホテルを見る
ベランダへひらく硝子戸から
そのホテルは見える
ひどく老いた壁を朝はしている
午前は自分の椅子から
言わないホテルを見て過ごす
海まで4キロのあくびのなか
ビルらしいビルは
会計士のビルくらいで
ホテルの窓のうちまで見えそう
でも見えない
それが言わないホテル
昼は麦焦がしをねっとりと食べる
言わないホテルを正面に見ながら
ルームサービスは
カレーとティラミスかもしれない
午後は海風にふちどられた
言わないホテル
おおきさは乳輪くらい
自分の椅子で昼寝をする
ホテルを見ている夢を見る
夜の言わないホテルは好きだ
屋根のあたりが四角く点灯し
壁がひかりで橙に染めあげられる
梅雨のころの枇杷みたいに
煌めくホテル
若返るホテルを見ながら...



