「トラウマ」ヒラノ

2025年04月21日

熱を出すと同じ夢を見ていました

当時、確か東京ガスのCMでオレンジ色1色の夕焼けの様な背景に、影絵の様な真っ黒い、そして縦笛を持ったハメルーンの笛吹き男の様なキャラクターがでこぼこ道だかを歩いていく、という内容でした

調べたが具体的な画像が検索で上がって来ない

変だな…

何か子供向け番組の開始直前に毎回放映されていたと記憶しています

オレンジと黒のコントラスト

まだ子供だった僕はしょっちゅう熱を出しては親を困らせていました

「風邪だしミカン食べましょう」となればオレンジ色の吐瀉物を枕に吐き出し、

「風邪だからイチゴ食べましょう」となれば真っ赤な吐瀉物を
枕に吐き出したり、
この時ばかりは両親は「吐血じゃないの?!」とちょっとしたパニックになりました(さっき食べたイチゴです)

そして…
風邪で学校を休むと夢の中に必ず、まず間違い無く現れるキャラクターがいました

それが冒頭に書いた東京ガスのCMの「そいつ」とおぼしき者です

普段、例のCMを見る分には何も感じ無いのですが夢に現れる「そいつ」は意地悪でとにかく怖かったのです

何歳の時から現れなくなったかは定かでは無いのですが、とにかく、熱で布団に寝かされると必ずやって来るのです

夢の中で、でこぼこの道、これは大概が電車の屋根です
そこを必死に走っては車両と車両の間を飛び越える
待ってもらえず、とにかく走りまくる、全力です

オレンジ色の世界で、真っ黒で何かを握った「そいつ」
目が恐怖を更に煽る様にオレンジ色に尖っていました
ナイフの刃先の様に

そして僕の後ろをニヤニヤしながら付かず離れず追いかけて来ます、ハンティングを楽しむサバンナで猟銃を握る奴らの様に

夢の中で僕はひたすら逃げ続ける、走りっぱなしで止まる事など出来ません
悲鳴すら上げれずとにかく真っ直ぐ全力疾走「来ないで、来ないで、もう来ないで!」

オレンジと黒の二次元の影絵の様な映像の中で泣きながら息も切れ切れ終わりの無い追いかけっこが続きます

僕が目を覚ますまで

発熱すると必ず同じ夢を見る、と言う人に僕はまだ会った事が無いです

けれども「そいつ」は必ずやって来ます、必ず
夢の中で恐怖におののき、そして目覚めたら目覚めたで「また来た!」ともう一度恐れおののく

これが深夜に起こった場合、何度か寝ている両親に泣きついた憶えがあります

この現象とは何なのでしょうか?
そして当時のCMはグーグルで検索をかけても一つも上がってきません

眉唾の、だからオカルト的な話となれば
「そもそも君はそんなCMなんて見ていないんだ」
「幻覚みたいな物でしょうね」
そう言われかねない

芥川が書いた「河童」の様な話だ、それは否めないです

だけど、約束なんかしていないのに、必ず現れる
意地悪な目をして、ニヤニヤしながらどこまでもオレンジ色の夕焼けの中を追いかけて来る黒い「そいつ」

「そいつ」の見た目は二十代後半の様だと記憶しています


ああいう現象に名前はついているのでしょうか?今もどこかで熱を出す度にうなされ、追いかけ回され泣いている子はいるのでしょうか?

「そいつ」の見た目は二十代後半

夢の中で捕まった事が無い、故に捕まったらどうなるのか、それは大人になった今でも分からない


とにかく電車の屋根を全力疾走なのです
熱を出すと、ですが

そう、必ず捕まる前に目を覚ますのです、これも毎回同じなのでした

そしてある日を境に「そいつ」は一切夢に出て来なくなりました
それも変な話だと思いませんか?
何がどうなったらそうなるのか?「出て来いよ」とは言いませんが、仕組みがまったく分からないのです、「あいつ、何
なの?」

それがオバケであったり怪物だったら子供ながらにもその目的も見当がつくものですが全く目的が分からない

毎回ですよ?毎回熱にうなされると必ず「そいつ」がやって来ます
ある意味、妙な知人よりよっぽど律儀な奴ではあるのですが

よく夢は支離滅裂な展開になりますが、どうやら睡眠中、人間は4本ほどの夢を見ているそうで、起きた時にそれらがごちゃ混ぜになるからへんてこな内容になるのだと聞いた事があります

でもちょっと待って下さい
誰ですか?他人の夢の世界を覗いた事がある様な事を言う人は
脳波で検知出来る物なのでしょうか?

ただ僕の夢は、悪夢は常に一貫していました

夕焼けのオレンジの中をひたすら全力疾走、ただこれだけ

今、大人になって思い返してみるとなぜ僕は「そいつ」に恐怖を感じたのでしょうか?

例えば深夜、廃業して荒廃した病院
真っ暗な森、真っ暗な洞窟

怖いですか?僕は怖いです
なぜ怖いのでしょうか?

これ、もしかしたら「知らない」、「分からない」という「?」が原因だとしたら…

何の目的か全く「分からない」例の「そいつ」

初めて行った国で提供された全く「知らない」料理

見た事も無い、名前も「分からない」謎の深海魚

「知らない」人に怯えるワンコ

え?もしかして「恐怖」の根源って「知らない」、「分からない」となりませんか?

僕は「そいつ」の事を「知らない」し、何がしたいのかも「分からない」、だから怖かった
ではトラウマの原料とは「知らない」と「分からない」の混合物と結論付けれるのかも

だって死後の世界なんて…

トラウマ、これって実は知らない分からない、だから怖い、なのかも

今だって思い出すと怖いですよ
でもね、怯んじゃダメ
次は、次に来たら突き飛ばす
逃げるな、立ち向かえ俺





ヒラノ