「無人」道中記 POGE
無人は詩人の白井明大さんに背中を押された数人が人を募って集まった詩や文芸、芸術の同人だ。不思議と、しばらく詩を書いていなかったり、書けなかったり、自らの詩学に行き詰まった人々が多かった。私もその一人で、リハビリとしての詩は書けても、自分の納得いくものは書けていなかった。二つ返事で参加を表明した。
同人を組むぞーとなってから、はて、名前はどうしようとなりウンウン唸っていたら、そのときにFBのグループ名が無人島、であったことと、東日本大震災のことをだぶらせて、「無人はどうだろう」と提案してみた。紆余曲折あり、無人に決定したとき、人がいるのに無人というのは矛盾だけど、その矛盾を引き受けることこそ、震災後の詩を書くことに繋がるだろうと、私は思った。
それから毎月合評会を開いてお互いの詩の感想を言い合ったりしていたのだが、無人のサイトのデザインや諸々をめぐり、2名が脱退、コアメンバー4人という寂しい出発となった。それでも毎月の合評会には外部から参加者が絶えなく、同人に入るまででは至らずとも、常連になってくれ、後に同人誌に寄稿してくれる人も集まってきた。俄然面白くなってきた。私は相変わらずリハビリめいたものしか提出できていなかったが、合評会に参加する皆の作品を読むだけで楽しく、毎月の合評会を心待ちにするようになった。
合評会を地道に続け、それなりの量が集まったのでまとめようということになった。新聞紙大の物を作りたいとか、音声作品も入れたいのでCDにするとか、様々な意見が出たが、私は最初から本の形にすることにこだわっていた。むしろそうでなければ意味がないとすら思っていた。このネット全盛の令和の今だからこそ、紙で出したい。速すぎるネットのスピードに抗うべくじっくり読めるものにしたい。ずっとそう思っていた。そして、我々の書いたものを一番理想の形で発表できるのも紙媒体しかないと思っていた。もしそうでなければ同人を抜けるつもりでいたのは内緒だ。
本の形にする、決まったらすごい速さで作業が進んだ。同人の皆が各自載せたい詩を選び、忙しい中、休みなく動いた。本の形にすると決まってから猛スピードだった。どうしても年内に出したいと思っていたからだ。PDFファイルをいじくりルビ、読みのチェック、漢字にするか統一するか、休日返上で原口くんが動いてくれなければこんなに早くは完成しなかっただろう。販路の確保や進呈先、やることはたくさんあったが、兎にも角にも本の形になったものを自分が読みたい、久しぶりに鬱が晴れるような思いだった。
完成した同人誌が届いたとき「カッコいい!」と感激した。そして文庫本サイズだったこともあって「カワイイ!」とも思った。これはインテリアにもなるよ、そう思わせる素敵なデザインだった。中身ももちろん自信があったが、紙で読むと、より詩の良さが際立っている。特別寄稿の白井明大さんの詩が染みた。本の形にしてよかったことの一つに原口くんの大作「ふたたび殺戮の時代」をその叙事的とも言える迫力と重さを体感できることが挙げられるだろう。モニターでは何度も読んでいて、大作であることはわかっていたが、やはり紙にするとその圧倒的な力がビビットに見える。紙で良かったと心から思った。
そして自信を持ってお勧めできる同人誌が完成しました。自分で言うのもなんですが、歴史に残るものになったと自負しています。これからまだまだ続いていく『無人』ですが、よろしくおねがいします。
https://mujin-books.booth.pm/items/3519797