「光の円盤」もり
スーパーへ行く途中の
とある信号に
しょっちゅう引っかかる
そこで見上げる
集合住宅の
4階のベランダには
カラスよけの
CDが吊るされていて
こんなのほんとに効果あるのかなって
思いながらも
ぼくは
CDの内容が
気になっていたりする
目を細めてみるけど
タイトルは
見えやしない
邦楽だろうか
洋楽だろうか
民族楽器のインストだろうか
ダイソーのクラシック名曲集だろうか
ポエトリーリーディングだろうか
その家を巣立っていった息子がかつて友だちから借りパクした一枚だろうか
何も入っていない空、だろうか
ぼくのバンドの
2ndアルバムだろうか
バンド活動したことはないけど
ベランダのCDは
春風に小さく揺られている
信号が
青に変わって
音楽はそこで 途切れる
スーパーまであと少し
買い物は お金が出ていくのでいやだ
「ギタリストってのは初めてギター買って音鳴らして、
わあー!ってなったときが頂点なんだよ。あとはそこからどれだけ落ちないかだ」
(イングヴェイ・マルムスティーン)
ぼくはあんまり知らないけれど
この発言をずいぶん前に知ってからというもの
ずっと 頭に残っている
音楽を、音楽として奏でている人は
いつだって"絶頂"に居るように見える
落ちようがない
平たい地面が
そのまま 頂点になっている
歪んだギター
ブンブン鳴っているベース
炸裂するドラミング
一瞬の静寂の中にさえ
わあー!っていう
その人の
原始的な
生の
声が
きこえる
くそすてきだ。
帰ったら
アンプのない六畳間で
エレキギターを掻き鳴らそう
左手の指に食い込む
エコバッグの重みを
感じながら
ぼくは、
せめて
きみの家のベランダくらいは
守れるようになりたいと思い
役に立ちたいと思い
きちんと
謝りたいと思い
思い、とか書くのをやめたいと思い
曲を書く
なんにも
反射しない
それ自体が
光って
それ自体が
揺れ動く
雨の
しみこんだ
円盤に
乗りこんで
もし
ぼくの
わあー!
って声がきこえたなら
そのときはどうか
ベランダから手を振ってほしい
飛んでいるぼくに
手を振って
手を振って 教えてほしい