「別れて朝まで飲んでたら」大井悠平
古いブルースよろしく、おいらはその日もしこたま飲んでいた。
そんな夜の話なんだ。
よぉ、お兄さん。見ない顔だね。最近この街に越してきたのか。
良かったら一緒に呑まないかい?
さっきまで酒盛りしてたんだが皆帰っちゃってさ。
寂しかったところなんだ。
へぇ、お兄さん有名な新人賞を取ったんだ。
マスター、この子に一杯出しておくれ。
そいつは前途有望だね。将来が楽しみだ。
あっ、そうだ、おいらも仲間に入れておくれよ。
おいら、これでも昔は巷で有名だったんだ。
悪い思いはさせないからさ、一緒に楽しいことをやろうじゃないか。
えっ?過去にすがる者とは仕事ができないって?
なんだ、そうかい、そいつは残念だなぁ。
その夜はそんな感じで別れたんだ。
一杯のバーボン、一杯のスコッチ、一杯のビール。
相も変わらず飲んでたんだ、マスターが怪訝な顔をしていたっけ。
そんな夜のことだった。
あれ?また会ったね、お兄さん。
マスター、そんな顔しないでこの子に何か一杯。
そうかそうか結構結構、順調な滑り出しなんだね。
やっぱり、おいらも仲間に入れとくれよ。
おいらを仲間にしたら百人力だよ。
そんじょそこらの若いのとは訳が違うんだ。
えっ?おいらが共同経営者と揉めたこと何で知ってんの?
えっ?おいらが仲間内と大喧嘩したって何で知ってんの?
なんだ、そうかい、噂が広がるのは早いなぁ。
その夜はそんな感じで別れたんだ。
一杯のバーボン、一杯のスコッチ、一杯のビール。
外はひどい雨だった、マスターにいい加減にしてくれって言われたよ。
そんな夜の出来事だった。
おお!お兄さん久しぶりだね。
どうだい、ここで一緒に?
今まで何してたのさ?
ああ、そうなのか、故郷に帰るのか。
この街には何もないと言うのか。
同じ志の仲間がいないと言うのか。
そうだよなぁ、始める事は意外と簡単なんだよな。
やり続ける事が一番大切で一番大変なんだよな。
そうだよなぁ、初めの一歩を踏んだ者、皆最初は褒めはやすんだ。
でも、二歩三歩その後の歩みを進めるうち、皆勝手に離れていった。
続けることが大切で大変なんだ。
初めの一歩、続けて二歩三歩、
自分を信じて四歩五歩、
旅の途中で誰かと出会い、
その誰かと百歩千歩、
そして皆で一万歩。
それってどれほど美しいのだろう。
そうか、一人で帰るのか。この土砂降りの中を。
もう少しここに居たらどうだい。
何もないとか誰もいないとか言うんじゃないよ。
歩き続ける悲しみも出会いの喜びも
君は本当に味わったのかい?
その夜はそんな感じで別れたんだ。
彼を見ることはもう二度となかった。
マスター、雨が上がったみたいだ。
今日も飲んだなぁ、いつもありがとね。
それじゃ、おいらもそろそろお暇するよ。
いやぁ、綺麗な朝日だなぁ。
誰かと一緒に見たかった。