「品田UFO」ヒラノ
「チャリーん!」
「ポチっ」
「ガタン!」
さっ!
「これメスだ」
「?!」
「このコーヒー、メスです」
缶コーヒーにオスとかメスとか性別ってあるの?
そして購入者より先にその缶コーヒーを奪う様に握り、その性別を判定する
これが品田さん
品田さんの奇行は数しれず、誰もいない事務所の隅で灯りも着けず預金通帳を眺めて笑っていたり、デジタル時計の数字が変わるのが好きで常に携帯を見ている
「51、52、53、54、55、56、57、58、59、00」
この00の瞬間、キラーン!と笑顔になる
とにかく妙な職場だった。
ラーメン二郎の食べ過ぎで病院送りになった者、通勤時に車に轢かれたにも関わらず「僕は大丈夫ですから先に行って下さい!」と事故を起こした運転手に伝え轢かれた本人はそのま全治1カ月で入院したり、大戸屋のご飯がおかわり自由だと店内で聞いてダッシュで更衣室にふりかけを取りに戻る者、土曜日はチートデイだからと昼食に生ハムだとか謎の高級食材とライスを食べまくる者、バスの運転手だったが食べ過ぎからの肥満で運転席に座れなくなってクビになった者、洗濯の洗剤の匂いが嫌いで洗濯しない&風呂に入らない凄まじく臭い者、特撮マニアに電車マニア、サッカーマニア、プロボクサーもいたし元トレーナーもいたし、そのトレーニングパートナーを務めているとてつもないフィジカルを持て余している埼玉産まれ埼玉育ちの恐ろしく日本語が苦手なトルコ人とのハーフだったり、踊り子へステージに紙テープを投げるタイミングをコントロールしている浅草フランス座の客の重鎮だったりまたその弟子、裏ビデオマニアで図書館の館長の様な扱いの者だったり、AV女優のサイン会に並ぶ警視庁への就職を希望する大学生だったり、元東京拘置所の看守などなど…
人間動物園と言う呼び名がしっくりくる職場で、三文字で言うとカオスだった
今、テレビで活躍しているあの人も居た
また別の人だがその人はいつもミッキーマウスのTシャツを着て出社していた
同じ柄では無く毎日違うミッキーだった
ある日聞いてみた
「ミッキー好きなんですか?」
「俺さ、前にディズニーランドで働いてたんだよ」
「!!」
思いもよらない答えが返って来た
以来、加藤さんとは仲良くなった「これさ、ヒラノ君だから教えてあげるけど、ディズニーランドのキャストってデキるんだよ」
デキるとはエッチを、だ
「なんですか、その情報?」
「いや、マジなんだよこれ」
「敷地が広いでしょ?更衣室行って返って来るだけで凄い時間かかっちゃうから女の子のキャストはバックルームで男の目も気にしないで着替えちゃうんだ」
「ほうほう…」
「それでさ、各アトラクションごとにしょっちゅうコンパやってるの」
「それぞれ別の職場みたいな物だから顔を合わせづらいとかそういうの全く無いわけ」
「なるほど…」
土曜日と日曜日は必ず出勤になるだろうから地元の友達とも疎遠になりがちだろうし、そもそもテーマパークで働く時点で寂しがり屋なのかもしれない
何よりディズニーキャラクターが好きという共通点もある、この加藤さんみたいに
「それでさ、俺さ、後楽園ゆうえんちでバイトする事にしたんだよね!」
「俺だよ?こんな俺でもディズニーで6人とヤったんだよ?」
「後楽園ゆうえんち、期待出来そうでしょ?」
まさかドンチャックもこんなよこしまな気持ちの労働力がやって来るとは思ってもいなかったであろう、
本人は色々とやる気満々である
後日、加藤さんに聞いてみた
「加藤さん、後楽園ゆうえんちどうでした?」
「なんか、売店で働く事になったんだけどさ、1日中ババアと2人っきりで缶詰めで…」
「辞めたよ、1日で辞めた!」
「辞めてやったよ、あんな所!」
「本当に最低だよ…」
ぶち切れである、たいそう御立腹である
で、あるが…
最低なのははたして誰であろうか?
話は品田さんに戻る
「ヒラノ君はさ、品田の名前知ってる?下の名前」と、加藤さん
「あ、いや… 知らないです、気にした事も無いですし」
「あいつさ、下の名前UFOっていうんだよ」
「嘘でしょ?流石にあの人は本当にイカれてるけどそれは無いって」
「本当だって!名簿見てくればいいじゃん?」
見に行くと…
『品田勇峰』と書いてあった
ゆうほう?
ユーホー?
UFO!!
マジかよ?
ほんとに?
「あいつさ、両親がUFO研究家でそれが縁で両親が結婚したんだって」
と、加藤さん
加藤さんが言うぐらいだから本当なのだろう
どうりで、どうりでどうかしているわけだ
だからか…
だからイチゴ狩りのバスツアーに1人で申し込んだりしてるんだ
今だって駅で集めて来たなんかのパンフレット見てるし
しかも行った気になってるのかもうニヤニヤしているし
駅と言えば品田さんは遅刻した際、地下鉄で通勤しているにも関わらず「JRの京浜東北線が遅延のため」と言い訳し、「お前、明日有給取って精神病院に行って来い!」と所長に怒鳴られ翌日は有給で休み、翌々日に所長に「異常ありませんでした」と答えたという事もあったとか
「行ったんだ?!」
なるほどね、そういう一族なのね、品田家
超デラックスじゃん
しかし自分の子供にUFOってつけるものか?昔、悪魔くん騒動というのがあって親は自分の子供に悪魔とつけて良いのか?とちょっとした論争になった事がある
連日、朝のワイドショーで話題となっていた
後にその父親はシャブでパクられた
次男の名前は大砲くんだそうだ
ボっカーン!
そういう過去の思考的背景もあり俺は物凄く納得した
品田さんが、じゃない
品田家がどうもこうも無いのだと
UFOどうこうじゃなく、限りなく宇宙人に近い人類を授かったのだと
自宅で息子が、息子の存在自体が『未知との遭遇』なのだと
あの人は『E.T』なのだと
人畜無害だが特に良い事もしてくれない生粋の変人なのだと
これが未来ってやつ?
あの人、歩く東京スポーツじゃん
月刊ムーに載るようなスキャンダルじゃん
「この事実をいち早く誰かに伝えないといけない!」俺はそんな気分になった
正直、ワクワクしていた
まだ知らない品田さんの驚愕の事実に触れれるかも、と
さっそく古株の永田さんに聞いてみた
「品田さんのご両親ってUFO研究家なんですよね?」
「はい?何それ?それ誰から聞いたの?」
「いや、あの、加藤さんが…」
「だから名前が勇峰でユーフォーでUFOなんだって…」
「アツ、それ騙されてる」(アツとは俺である)
「!?」
「品田のご両親は山登りが趣味なんだよ、だから勇ましい峰でゆうほうなわけ」
ちょっと、加藤さん?
やってくれるじゃん…
とは言え、俺はさっきのさっきまで品田UFOだと完全に信じきっていたし、今だって逆に永田さんを疑っている、いや本当はUFOだろ?と
ゆうほうじゃねーよ、完全に目が、ツラが、ゆーふぉーだろ
ゆーえふおーだよ!
言ってる事もやってる事も宇宙だろ
それともあれか?俺の周りだけ時空が歪んでるのか?だからカレンダーをめくってもめくっても仏滅が続くのか?
ほら、見て?
品田さん、まだニヤニヤしてる
しかも今度は何も見てないんだよ?
ニヤニヤする要素なんてどこにも無いのによ?
まさか机の木目を見てハッピーホルモンを分泌してるのか?
あり得る…
これは俺の憶測なんだけど、品田さんの実家にはUFOが駐めてあるはずだ
あの人、免許を持ってるのかな?
あ、持って無いから地下鉄での通勤なのね…