「東京早朝」ヒラノ
明けて無いけど
どっちだかわからないけど
自宅へ歩いて帰る
1人暮らしの2DK
見える物と言えばスカスカの車道、青いゴミ収集車、黒いタクシー、現場に向かう白いハイエース
それとコンテナを引っ張るどでかいトラック
乱暴なスピード
通ると、ちょっとアスファルが揺れる
タクシーにやっぱりトヨタのハイエースにゴミ収集車
何も、無い
ここには何も無い
ビルはあれど、お店はあれど、全部真っ暗だ
人の臭いがしない
無人島?何か一つの文明の終わりを感じる
その数時間後の想像がつかないほど、本当に何も無い
そうやって時代は刻々と変わって行くのでしょう寂しいとか悲しい、でも無く、嬉しいわけでも無く
何も、無いあるのは、だから、そういう仕事の車とゴミ袋
黒、白、青ねぇ?誰かいますか?
誰も俺の事なんか気にしちゃいねーよ
だって、誰もいないんだもん
虚無ですっからかんな自由な国道の脇の道端で
昨日と今日と明日の微妙な境界線俺は今日寝て、今日起きて、また今日寝る
「明日ってなに?」
今、見える物と言えば乱雑に積み上げられたゴミ袋、商売の状況証拠と本能に煩悩
ボールペン一本で街をデッサン
そして嫌われ続ける
誰かが何か言っている?聞こえる?わかんない、と言うかどうでも良くない?
俺にかまうな
ゲロと小便を跨いで街の臭いを嗅ぐ
そう、本当
歩く、ゆっくりでも無く、早くも無く
ネズミが走る、彼らも俺を跨ぐ
「これが俺のリズムなのかな?」
この感覚ってなんだろう?
もしかして俺は街並みや人混みに依存しているのだろうか?
ぽかーんと、ふんわりと、魂が、ちょこんとだけ浮く
おそらく想像するに東京23区でも、日本の他の街でも、世界中のどこかの街でも、そういう「ストンっ!」と何かがスッポ抜ける瞬間があちこちにあるはずだ
いない
平和?これが平和なの?そうなの?どうなのろう…
音楽を聴く気にもならず
ただ、道を行く無音と自動車のエンジン音
急ごうが急がまいが、次の赤信号で捕まる知ってる
人が、人間が、全開の水道の蛇口から吹き出るような様を、あるいは排水口に飲み込まれていくような様を、ずっと見てきた「誰が蛇口を締めたの?」
おそらく蛇口を締めたのは時計、なのだろう午前4時、5時、6時、ゆっくりと、そして急激に蛇口が回りだす
「どっバぁぁぁっ!」東京がスタートする
こうなると止まらない
幾重の人達が幾重にすれ違い重なり合い、今日が形成されていく
「あんた、起きて間もなく家を出て、死んでるの?」
「なんで?もうちょっと後にしてくんねぇかな?こっちは仕事なんだよ!」「なんで?てめぇ、なんで今なんだよ!?現場に遅れるだろ!」
「あなたさ、私はもう時間ないんですけどどうしてくれるの?」「遅延証明証を下さい…」
駅のホームで花見やキャンプで使う様なサイズでは無い、その数倍大きなブルーシートが周囲を隠し、視界を遮断する
そしてブルーシートから「何か」が出て来る
出来立てほやほやの瀕死体でしょうね
自業自得だよ、スマホばっかり見てんじゃねーよ
朝イチからお前はパン屋さんかよ
電車との衝突は基礎物理学の話となり、
自分の体重vs電車10両の総重量と乗客総数の体重を足した重さ✕速度、になる
おおよそ人体の血と肉と骨で受け止めきれる数値では無い本当に見た人や、その後始末に関わった人達が言っています
「砕ける」ゆるゆるの速度であってもグチャグチャになった、では無く、爆発する様な感じですって
そして砕けた体から体温が放たれて、周囲は蒸し暑くなるんだそうです数年前の大阪で起きた女性の飛び降り自殺
俺もバカだから興味本位で動画を見ました柵の向こうに立ち、説得の途中に、ビルの屋上から本当に飛び降りちゃうの?降りないよね?という多くの願いの中で、それを裏切り、女性は飛び降りた
「あっ、えぇ?!」と公衆の驚きの声の後、間もなく
7時の人、8時の人、良かったですね
その少し前には線路に降り立った職員達が割り箸で遺体の破片を拾い、黒いビニール袋に集め、線路にこびり着いた肉を工具で削ぎ落とし、それもビニール袋に入れ、どうにか運行ダイヤを正常に戻せる様に努力していたその黒いビニール袋を遺族に渡すんですって
お弁当かよ?明日、巨大地震があったとしてもなぜか自分は助かる気がしている
俺以外の人もそうだろうまったく根拠の無い不確かな自信
これは、なに?
どこから湧いて来るの?
そう言われながらも東京の人口は増えていく不思議
都市計画、立体造形として街を眺めると、こんな高価な作品も無い、東京
それは人間関係とも似ているのかも
一分一秒と俺は俺の命を消費していく
一歩一歩、靴底が減り、秒針が進んで行く
俺さぁ、俺はさ、生きてる意味とか価値ってあるのかな?
それを探す今日、東京
何かあるかも、見てみたいよもっと、もっと歩いてみよう
文字を書き連ね残す足跡
東京、早朝、混沌までの秒読み
10、9、8、7、6、5、4、2、1…
ふと死んだ友人を思い出し泣く
泣く、歩く、思い出すそして泣く
腹を減らした野良猫の様に喚き散らす東京早朝(お前、まさか見て無かったよな?)
「おい!誰か!」という騒音