「犬を食べる」荒木田慧

2025年07月09日

犬を食べたいと思って
山手線で新宿からひと駅
いきました

現代をいきる進んだにんげんは
一般的に鶏や豚や牛の肉を食べます
ときどき馬や熊や猪や鹿なども食べます
でもあんまり犬は食べないみたいです

よく 肉を食べないひとが
肉を食べるひとに怒っているのをみますが

肉を食べるひとの中にもまた
犬を食べるひとに怒るひとがいます

私は 怒るひとと怒られるひととの違いではなく
にんげんに食べられる動物と食べられない動物
その違いを不思議に思いました

鶏も豚も牛も馬も熊も猪も鹿も犬も
全部同じように思い

でも私は犬を食べたことがなく

だからもし
もし犬を食べたら

何かわかるかもしれない
何かかわるかもしれない

そういう風に思いました

いく前
一番上の伯父さんに
犬を食べてみたいと言ったら
伯父さんは
犬を食べると肌が脂っぽくなるのだと
いけないことを言う時のような声で
教えてくれました

だから
ドキドキしていきました

街について
目当ての店がどうしても見つからず
看板に「狗肉」の文字を見つけ
そこに入りました

メニューにはその文字がなく
注文をとりにきた女の人に尋ねました

女の人は
そんなものはない
というような顔をしました

!!看板に偽り有!!

私は仕方なくその店の
延辺料理とよばれる
中国の北朝鮮国境付近の料理を
お腹いっぱい食べました
それらの皿には犬は入っていなかったけれど
今まで食べたことのない
近くて遠くの美味しい味がしました

結局
私は犬を食べられませんでしたが
大きな頭の小さな脳みそでかんがえた結果

にんげんに食べられる動物と
にんげんに食べられない動物とは
とくに違いのあるものではなく
(それはただの意味のないあみだくじのようなもので)

そのことは

肉を食べるにんげんと
肉を食べないにんげん

犬を食べるにんげんと
犬を食べないにんげん

ひいては

動物を殺し肉にするにんげんと
パックに入ったその肉を食べるにんげん

それらのにんげんたちに
なんらの違いがあるものではないことに
似ているのかもしれないと思いました

やれやれと帰途につき
それでもやっぱり私はいつか
犬を食べてみたいです









荒木田慧