連載:これも愛やろ、知らんけど 13 接力(Jiēlì) 河野宏子
そうはいってもこの数日はとても忙しかった。クリスマス商戦に強力な追い風になる寒波がやってきて、勤め先では雪遊びのそりや雪合戦のたまを作る器具まで売れているので、普段はオフィスワークに従事しているわたしも、倉庫で商品の入った段ボールを運ぶことがある。通路の狭い倉庫だから、社員もバイトも総出のバケツリレーでどんどん運ぶ。昨日は、中国人の女性上司Rさんと並んで。Rさんはわたしより10歳ほど若く、中国語/ほぼ完璧な日本語/そして英語を話すトリリンガル、それでいて偉ぶらず、時折失礼なバイトが彼女の母国の悪口を言ってもおおらかに笑いにして返す。自虐とは違う、なんというか、大陸が育んだ優しさが漂っている人。段ボールを手渡しながらRさんに、「バケツリレーって変な日本語ですよねぇ」と言ったら、うん、マニアックな日本語ですよ。とのことだったので、中国語でなんというのか聞いたら、「接力(Jiēlì、ジェイリー)って言います、リレーって意味ですね」と教えてくれた。そっか、バケツの要素はなくてもいいよな、なんで日本語ではバケツとリレーがセットで広まって残ったんだろう、消火が由来?などと脳内で数時間のあいだ言葉をもぐもぐしながら、段ボールを運び続けた。倉庫の中には店舗やオフィスと同じ有線が流れていて、この時期はクリスマスソングを飽きるほど聴いている。ウォーイズオーバー、イフユーウォンイッ、ジョンレノンが歌っても戦争がなくならないならわたしのような詩人が何か綴って意味があるんだろうかと聴くたびに毎度思い、クリスマス停戦の歌なら日本のバンドにもクリスマスの日だけ友達のように笑うんだみたいな歌があったけれど、いよいよこんな世の中になってくると1日でも停めることができるなら逃げたい人は逃げられるのだし、助けに入ることもできる、何より権力者のおっさんどもの気が変わって戦争の再開が面倒になって終戦したりしないかとあり得ないことを空想したりしている。あぁ。今日中にこの段ボールを全部発送しなきゃいけないらしい。手の届く範囲が平和だから戦争を遠く感じるというより、目の前のことにあまりにも忙しいから、考えはいつもそこで止まってしまう。
昼休みの雑談の途中、Rさんは故郷の雪祭りの写真を見せてくれた。あまりにも寒いからバケツの水をぶちまけると地面に落ちる前に凍っちゃうぐらいの寒い国。空中に放たれた水が大きな翼のように綺麗なカーブを描いて凍っていた。お昼ご飯を食べ過ぎて眠くなるわたしの頭。戦争してる国にもRさんの国にも日本にも、この冬はたくさん雪が降って、世界が真っ白になって、倉庫に眠っている生活に不必要なものたちがもっともーっと売れるといい、雪合戦のたまを作る器具は、たい焼き器のような方式で、雪をぎゅっとすると、真っ白い小鳥の形のかわいい雪玉ができるんだ。