「アリの話」 03 大塚ヒロユキ
小さな痛みがアリの意識を呼び覚ます。
拡散された苦痛がアリの裸体をむさぼりだす。皮膚を焼きつける灼熱の陽光、手足が燃えているような感覚。耳鳴り、渇いた喉、頭痛、顎がちぎれそうなほど痛い。
朦朧とした意識の中で、アリは吊橋に張られたロープの産毛に噛みついてぶら下がっていることに気づく。
ロープの上に這いあがるアリは、自分の身体が徐々にマッシュルームによる呪縛から解放されていくのを感じる。
静かに息を吐き、呼吸をととのえる。空は目が眩むほどに晴れ渡っている。アリは暑さをしのぐためにロープの裏側に回り込む。
ちょっとした日陰なのに、そこは冷んやりとした空気に包まれている。逆さまになったアリの頭上には、むき出しの裸岩、巨大な弓形の岩山、峡谷が大きな屋根のようにそびえている。
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