「雨は夜更け過ぎに」中川ヒロシ
僕は24才のクリスマスイヴの夜、読売新聞の勧誘員をしていた。
僕以外は全員偽名で仕事していた。
1件の契約で8000円で、僕はだいたい1件か、2件の契約が出来る事は滅多になかった。
それでもその日の僕は、クリスマスイヴだから、何処かで誰かからの優しい言葉を期待していた。
「クリスマスなのに大変ですね。頑張り屋さん」みたいな目線からの1件の契約を。
ところが、何処のご家庭も、せっかくの子供とのクリスマスの夜の新聞勧誘なんて、厄介者扱いだ。「警察呼ぶよ」とまで言われる。
全く契約が上手くいかない上に、その夜は雪まで、降って来た。
田中さんたちが「こんなクリスマスに契約なんか出来ない。真面目にコツコツ働いたらバカを見るぜ。昔やったように、祈祷師をやって稼ごうや」と、言い出した。
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