「『三匹の仔豚』の件」奥主榮

2025年05月05日

 子どもの頃、「三匹の仔豚 ブー・フー・ウー」というテレビ番組を、よく見ていた。(タイトルの表記は、違ったかもしれない。
 幼い頃だったので、内容はほとんど覚えていない。けれど、ただ一回だけ、強く印象に残った回があった。

 三匹の仔豚たちが、一緒に遊んでいる。「影踏み」をしているのである。とても楽しそうである。狼さんは、それを遠くから見ている。やがて、一人で自分の影を踏み始める。でも、当然なのだけれど、全然楽しくない。
 なんだか、とても切なかった。

 二十代の頃に、番組関係者の描かれたエッセイを読んだ。「狼さんと仔豚さんたちを、友達にしてください」といった投書が、番組放映時に送られてきていたそうである。
 しかし、番組の方針として、世の中には相容れない存在というのがあり、乗り越えられない壁があるということを子どもたちに伝えたいという揺るがしがたいテーマがあり、狼さんと仔豚さんたちは友達にならないまま放送は終わった。

 そうした大人たちの矜持に触れて育ってきた僕は、六十六歳になった今も、狼さんと仔豚さん達が仲良く暮らせる世界は、どうやったら実現できるのかということを夢見ている。

二〇二五年 五月 四日





奥主榮