「あいするあなたへの手紙」大島健夫
わたしはいつもあなたに、わたしはアジアゴールデンキャットを飼っているのだと言うのですが
ほんとうはわたしはアジアゴールデンキャットを飼ってはいないのです
うしろめたい気持ちがわたしの奥底の、かわいらしい取っ手のついた白いちいさな陶器の花瓶からこぼれそうになると
わたしはあなたにあやまる手紙を書き始めます
ゆるしてください
わたしはアジアゴールデンキャットを飼っているというのは、あなたの気を引きたいあまりに話を盛っていました
わたしがほんとうに飼っているのは、ボルチモアムクドリモドキなのです、と
しかしわたしはやはりボルチモアムクドリモドキも飼ってはいないし、実はそれがどんな鳥かも知りませんので
良心の呵責に耐えられなくなり、わたしの手紙は、途中からフロリダの夏の素晴らしさをたたえる手紙に変ってしまうのです
ところがわたしはほんとうはフロリダに行ったこともないので
書いている途中で泣き崩れたい気持ちになってしまうのですが
わたしはこころの芯が強いので唇を噛んで、泣きたい気持ちをぐっとこらえるのです
そうしてわたしは地球温暖化係数に関する論文を書き始めるのです
わたしはいつしか、正義の心に燃えるのです
正義の心がわたしの奥底の、かわいらしい取っ手のついた白いちいさな陶器の花瓶をほんのりと赤く染めてゆくと
わたしは電磁波のことについて書かないわけにはいかなくなるのです
電磁波についてわたしにわかっているのは
それが電磁の波であるということです
わたしはそのことから、わたしがほんとうはチョコレート人間であるということについて書き始めます
わたしはあなたのチョコレート人間です
だからゆるしてください
わたしはあなたのチョコレート人間ですので、あなたはきっと、いも人間ですね
ゆるしてください
わたしは日露戦争がすきです
ゆるしてください
いつかあなたといきたいのです
日露戦争にいきたいのです
どんなことでもきいてください
日露戦争のことならば
わたしのひいおじいさんは日露戦争に行きました
ひいおじいさんは鳥人間でした
ひいおじいさんの子供が、わたしのおじいさんです
おじいさんはタイヤ人間でした
おじいさんの子供が、わたしのおとうさんです
わたしのおとうさんはわたしのおかあさんと結婚しました
おかあさんはカセットテープ人間でした
わたしたちの家庭はレーザービームでした
ゆるしてください
わたしはあなたとあいしあいたいのです
あなたとこどもをつくりたいのです
たくさんのこどもをつくりたいのです
はまち人間、夢人間
聖徳太子人間にエッフェル塔人間
たくさんのこどもをつくるのです
たこ人間 まじめ人間 かば人間
こどもの海でおよぐのです
メモ人間 おっぱい人間 ごみ人間
だいすきなあなたとわたしのこどもたち
ひも人間 尾骶骨人間 うそ人間
わたしとあなたのこどもです
わたしとあなたの責任です
わたしはかつて、人生は柏餅だと言いましたが
訂正します
あなたは
変態です