「いつも、そこにある…」ヒラノ
八月、夏、平日、水曜日
東京都港区、クソ暑い、増上寺
傍の小さな坂を手を繋いで、二人で、汗をタラタラ、テクテクと歩いて行く
「暑いね?」でも、それだけでは手を離す理由にはならない、少なくとも僕は、
僕は
あなたもそうだろうと勝手に決めつけて坂をのんびりと登り続ける
スキップにも似たステップ
「嬉しい?」「嬉しい!」
それが、本当に嬉しい
アホらしいフレーズの応酬
あなたと一緒に居られるなら、たぶんなんだって楽しいのだろうな
恋なのか?愛なんだか?わからない
嬉しいと楽しいが交錯して、とにかく愛おしい
ウケるねwww 大好き!
右手に交番、左手に公園、そしてバス停、連なる観光バスと修学旅行生、
駐車場、そして大きな塔、大きな、それはオレンジの塔
「こんなに?」 「そんなに?」 が連鎖し、大きくなり、上へと昇っていく膨らみ
暖かく、1秒単位で、固くなる僕達のつながり
果たしてここにどれだけの人が訪れたのだろうか?
果たしてここの設立にどれだけの人が関与したのだろうか?
僕とあなたは、どうしてここにいるのだろうか?
地方ナンバーの4WDも、はしゃぎ過ぎのあの子も、家族連れも、
何もかも気にならない穏やかな世界
ただ、あなたの手を引き、ゆっくり行く
行こう?もうちょっと、行こう?もうちょっと、行こう?行こう! どこへ?!
「ようこそ、東京へ!」
アクリル板の前で待つ数十秒
制服のその人に二枚と告げる
今日は平日、だからこその平日
だからこそ、休んだんだ
だよね?そうでしょ?
ガラス、自動ドア、クーラーの効いた館内、
僕たち二人は女の子二人組の後ろに並ぶ、エレベーターの前
アイコンタクトよりも、もっと繊細な、肌と肌がふれあうタイミングで、する、
理解する
腕を組む、今出来たばっかりのルール、優しく固めに結ぶ
数十秒間の永遠
順番に乗り、ドアが閉まり、耳がキーンとし、ツバを飲んだ時、ドアが開き、
広がる視界、青と白、ボルトがめり込んだ屈強な鉄骨、ガラス張りの子宮
「そっちが俺の家の方」
「あれ?どっちだっけ?」
どっちだっけ?レインボーブリッジの逆の方?見に行こう!
グルグル回る回廊、鳥の視点、東京上空360度ゆっくりと廻るコリドー
「ねえ?階段で降りようよ?」
矢印に従って、行こう、行ってみよう!
分厚いドアを開けたすぐそこで、
そこには僕達以外には誰もいない不思議な空間、鳥たちの世界
入道雲の下、ヘリコプターの音を聞きながら、オレンジ色の金網に囲まれて
東京上空、あっちは僕の方?ほんと?どっちだっけ君のほう?
あの辺で一緒に暮らせたらいいね?
家賃とか検討のつかない、あっちの方、あっちの方、そしてずっと向こう、
「あれ、富士山?」かもね
僕らが知っている山の名前ってそれぐらいだけ、なのかもね
藤井さんのお宅もあるのかも...
あるね、たぶん、絶対
オレンジの鉄骨と金網の中、階段に腰をかけリュックを開け、シャンパンを出して
コルクを抜く
「PONG!」
止まらないさっきから始まっているお喋り
「ピーチク?」、「パーチク!」、「チュンチュンチュン!?」
「うん!うん!うん!」
ねぇ、俺から言うのもアレだけど、明日も会いたい
「明日も会いたいな」
それじゃ足りないな
「ずっといたいな」
それじゃあハッキリしないや
「アズッモタイアイア!」「本気で!」
「うん!」って返事をくれるあなた
なんで返事したの?本当に伝わったの?
もはや日本語でもなんでもないのに、わかっちゃった感じ?
「俺はとっても、あなたが大好き」
言葉ではない普遍的なジェスチャー
あなたは唇を重ねてくれた
東京で、日本で、一番素敵な所で
街は夕暮れ、屈強な僕らを包む鉄骨がピンクに染まっていた。