「しだれ桜」 中川ヒロシ
2025年04月12日
「ご飯はかまどで炊くと、美味しいんだって」
「誰が言ってた?」
「ここの台所の幽霊が言ってた」
「死んでまでそんな事言いたいかな?」
「生きてたって、案外そういう事でしょ」
「そう言えば公園に、枝垂れ桜が咲いてたよ」
「珍しいわね、あなた一人で桜なんか見て、幽霊でもいた?」
「子供が 『小さなお葬式』って遊んでた」
「今の子は本気と書いて、マジと読まないわね」
「ところで幽霊って、また出るのかな」
「大丈夫、もう死ぬんだって」
「根気ないな」
「ベランダから、桜見えるかなあ」
「もう夕暮れなんじゃない」
「頑張った人にしか見えない夕焼けって、あると思うわ」
「そもそも夕焼けを、見たいかどうか」
「あなたは私が夕陽になって、沈んで行くところまで、見てなさいよ」
「君さえいたら何も要らないって頃に、君がいてくれたら良かったのに」
「その頃に私いたわよ」
「幽霊だったのかな」