「なにいってっかわかんねぇよ」湯原昌泰

2024年09月30日

昌也が日本を出国して半年
もうこの国は終わりだ、オワコンだ
そう憂いての脱出ではなく
好きな人がアメリカに行ってしまい
かつ
今アバディーンのカートコバーンの生家の近くで働いているのと連絡が来て
どうせいてもいなくても同じ俺だと
自分を憂いてアバディーンに行き
きちゃった、と言った時の彼女のひきつった顔ったらなかった。
問題はひきつった顔がレアであり、
またその顔も大変素敵だということで
嫌われたくはないし、嫌な思いもして欲しくないが
その顔が見れてよかったなぁと思っていたら
しばらくして
自分のことは自分で決めなきゃね、という言葉を残し
彼女は町を去っていった。
よって昌也は一人、アバディーンのコンビニでレジ打ちをしながら
来る日も来る日も
あれよこせこれよこせ
元払いだ発払いだ
違う、これじゃない
ちゃんと人の話きいてんのかと罵られ
うるせえだまれよ
なにいってっかわかんねぇよ
てめぇの存在に対するてめぇの体(りょうど)、でかすぎんだろ
と客に言っても
あいつらバカだから
日本語わからねぇから
WTF?とかSuck my dick,This is America.HAHAHAとわけのわらないことを言って
コンビニを後にする。
思えば日本にいた時も
ありがとうにありがとうという意味はなく
俺は変わるに俺は変わるという意味はなかった
言葉が通じないから戦争は始まるよな
昌也はバイトの帰り道、自転車を漕ぎながら
自分の菊門が狙われていることなどつゆともしらず
きれい、と星空を見あげてため息をもらした。

ある夜、爆イケの姉ちゃんがやってきて
ひゅー、彼女、イケてるね
昌也が言うと
彼女は
Fuckin grossと吐き出すように言った。
なんだ?グロスが気持ち悪いってことか?
昌也は思い
俺のハンカチ、使いなよ、と
そっと彼女に差し出して
これはきまったと
鼻息荒く
今か今かとお褒めの言葉を待っている。
このように人生はつらく
人生はかなしい
誰もが誰かに欲しがって
誰にも与えようとしない
家に帰って昌也は泣いた
帰りたいと思って泣いた
帰りたいのは日本じゃなく
ましてや捨てた故郷でもない
存在しない遠い記憶
もしかしたらあったかもしれない未来、しかしなかった未来に
帰りたいと昌也は泣いた





湯原昌泰