「ふっかつのじゅもん」 中内こもる

2022年05月21日

犬を飼ってはダメな家でした。
猫も飼えませんでした。
仲の良い友達の家には犬と猫とニワトリがいて、
羨ましく思っていました。
それから、友達の家にはファミコンもありました。
自然と私はよく友達の家に行きました。

友達のお兄ちゃんの遊ぶゼルダの伝説を座って見ていました。
「鼻息がうるさいよ」
と、友達のお兄ちゃんによく怒られました。
興奮していたんだと思います。

犬も猫もファミコンも無い我が家でしたが、
「MSX-2」というパソコンがありました。
うちは電器店なので当時1台だけパソコンも扱っていたのです。
「MSX-2」本体と一緒にドラゴンクエストのソフトがありました。
あのドラゴンクエストのMSX-2版です。

「ほんとはゼルダがやりたいんだけどな」
そう思いながら6歳の私は店の中でドラクエをやっていました。
王様の部屋からスタートし、ゴールドをもらい、兵士と話し、
装備を整え、外へ出てスライムを倒し
スライムベスを倒し
ドラキーを倒し
レベルが上がって
ゴーストを倒せるようになって
ここまで小一時間
そろそろ飽きたので電源を切ります。
そう、電源を切ります。
電源を切るのです。

6歳の私は「セーブ」という概念を知りませんでした。
ましてや当時は「ふっかつのじゅもん」をメモして
再開する時は入力の必要がありました。
説明書も読まない、そもそも漢字が多いので読めない私には
想像もつかないシステムでした。

冒険はいつも0から。
いつも王様の部屋から。
ドラゴンをクエストする旅はいつも小一時間で世界ごと終わっていました。

あの頃、自分の名前が付けられた勇者たちは
毎日小一時間の命でした。

セーブの概念を知った今でも
あのドラゴンクエストはクリアしていません。
あの友達の家には今、別の家族が住んでいます。
うちには相変わらずファミコンはありません。
ニンテンドースイッチがあります。
犬も猫もいません。
亀が2匹います。










中内こもる