「みどりさん」 あいこん
「工場の仕事しかあなたはできない」
と母親に言われた20代
やり甲斐のない日々に 私は何かを求めて
当時のガラケーでサイトを漁った
ゴミ拾いのボランティア
そんなにハードルも高くなく参加できる
目的は「誰かがいるところ」だからだ
水戸芸術館でのゴミ拾いだった気がする
ゴミ拾い活動は3回目で
そこでみどりさんと出逢った
みどりさんはボランティアのスタッフで 参加者に別け
隔てなく声をかけていた
私とも少しお話した たわいない話をした気がする
後半で 急に「今度クラブいかない?」と誘われた
突然の誘いに戸惑いながらも
とりあえずついていくことにした
東京のクラブハウス
暗闇の中 人が沢山いた
ピンクや青の変なお菓子が売っていた
ドラッグクイーンのような派手な人もいた
危ないような
でもわくわくしてしまうような場所だった
ドープな曲がかかっていたり
昔どこかで聞いた ディスコの曲がかかっていたり
聴いていて心地が良かった
なんだが新鮮なうえに落ち着いていられたのは
みどりさんがいるからなんだろう
みどりさんは色んな人に話かけていた
クラブで知りあった
友達や仲の良いdjを沢山紹介してもらった
クラブでは誰かと話をしてる人がほとんどだった
4つ打ちの曲が流れ出す
みどりさんは 音に吸い込まれるように
踊り出した
ハウスの技でドルフィンというものがある
床に手をつきながら 身体をそらせ
頭から床にはうような 難易度が高い技だ
ハウスの特徴でもある足のステップも軽やかだった
私はおぉっと声をあげてしまった
綺麗だった
暗闇の中に 光を浴びながら
水の飛沫をまとわせるような 魚のようにも思えた
みどりさんとなら何処へいってもこわくない気がした
何かを確信したような気持ちだった
ディスコ・ソウルの曲をかけてくれるというレコードバーに連れていってもらった
私の知らないレコードを教えてくれた
教えてくれる曲はどこか哀愁があって 懐かしくて
今すぐ踊りたくなるようなものばかりだった
帰りにおすすめのCDを貸してくれた
海の家のイベントに 私の運転で遊びに行った
今日はみどりさんの様子がおかしかった
持っていた鞄は階段に置きっぱなしにして
ふらついていた
みどりさんの鞄を知らない男が 触ろうとした
私は急いで鞄を握りしめた
危なかった
みどりさんに鞄置きっぱなしは危ないよと言った
うん。と返事をしながらまたふらついていた
家にも何度かお邪魔した
最近の様子がおかしくて
気になって様子を伺いにいった
みどりさんのお母さんは とても優しい人だったけれど
声をかけるまでいつもふすまの奥にいた
みどりさんはこたつの中でうずくまっていた
私が声をかけると うーんと唸りながら起き上がった
ズボンの後ろに血がついていた
生理だったといって のそのそトイレに行った
それから
あるdjと結婚すると言ったり その人に殴られたと言ったり 病院の薬をやめると言ったり
しまいには私が嘘ついてると言い始めた
それから それから
みどりさんはいなくなってしまった
みどりさんに紹介してもらった まりまりという友達と
何度か家に行ったけど
誰もいなかった
ふたりでみどりさんーと何度も叫んだ
誰もいない寂しそうな家がぽつんとあるだけだった
もうあれから10年以上は経つ
たまに思い出しては元気かな?と思う
私は親に反対されながらも 東京の生活ももう5年になる
地元の工場の仕事でなくても大丈夫になった
たまにクラブにひとりで行く
踊ることはあっても
私はいつもどこか寂しいままだ
私はみどりさんみたいになれないから
誰かに声をかけれないし 帰りがけにハグもできない
し 好きな曲さえ覚えられない私には
いつまでも憧れだった
みどりさんには私はどう映っていたのかな?
みどりさんにとっての私はまだ嘘つきのままかな?
みどりさん、みどりさん、、
私は今にでも大好きな人で いつまでも会いたい人です
貸してくれたクリス・レアのオンザビーチのCD
私が気に入っちゃったから
みどりさんあげるよって
クリス・レアのしゃがれた声と思い出がいつまでも繰り
返されているままだ