「わたしを奇数にしてください」湯原昌泰

2023年05月31日

 A Iアイドルと呼ばれる方々が活躍を始めている昨今。一昨日5月29日には、週刊プレイボーイからA Iアイドル、"さつきあい"さんの写真集が発売された。この手のアイドルは女性だけに留まらず、男性アイドルも登場しているというから、時はすでに新時代に突入しているのかもしれない。もうすでにいるかもしれないが、彼、彼女らの中にはもろ肌を見せる方も出てくるだろうし、サブスクライブで彼らとラインや電話ができる日もくるだろう。たとえば朝には、「おはよう! 今日は夕方から雨みたいだから、忘れずに傘を持っていってね。それと、線路内への人立ち入りの影響で、東西線に10分から15分の遅れが発生してるみたい。線路への立ち入りなんて、もしかして痴漢が見つかっちゃったのかな…? あなたは絶対にそんなことしちゃダメだよ。今日も1日、頑張っていこうね!」といった内容が届き、夜には、「今日も1日お疲れ様。今日は私、九十九里浜で水着撮影をしてきたよ。みんなにはまだ内緒だけど、今日撮ってもらった写真、1枚送るね。もし何も着ていない私が見たかったら、コースをスタンダード会員からプレミアム会員にグレードアップしてください。それじゃあ、あんまり夜更かししちゃダメだからね」と、目も覚めるような営業ラインが飛んでくるかもしれない。いつかはJ popチャートで1位をとることもあるだろうし、芥川賞をとる作家も出てくるだろう。24時間、365日休まないA I作家は年10000冊の小説を発行する。しかも彼らは無給でそれをやり遂げる。では果たして人間は、それに見合う魂を文学に捧げられるだろうか。

 さて、人は時に人に人でないことを望む。メジャー二刀流の活躍を称賛し、女性に90、58、90を望み、土日だろうが深夜だろうが即時対応しなければ許さない。ついでにハゲもデブも低所得も許さない。だがそれがA I相手となると、途端にA Iに人間性を求めはじめる。小指のところが不自然だとか、お腹のタトゥーが時々消えるとか、細かいことに文句をいう。AIアイドルの中には靴のサイズを公開している子もおり、「もしかしたらこの子に靴が送られてくることもあるかもしれないじゃないですか」と運営スタッフは笑っていたが、では20年間吸ってきたセブンスターをわかばに代えて買って送ったその靴を、まさかお前が履いたりしないよな? まさか堂々メルカリで、転売なんかしないよな? 西暦20500年。未だ独身の俺は高校時代に好きだった子に似たAIアイドルに課金する。してその晩、「これからはずっと一緒だね」といわれて机の上で腹上死。わが人生に一片の悔いなしの独身老人の死など誰にも気づかれないが、ラインに既読がつかなかったことから、12時間後に救急車を呼んでくれたのはそのAIアイドルだった。競歩の選手になりたいといっていたのはこの子じゃない。いつだって人は目の前にいる方を大切にするべきだ。





湯原昌泰