「インベーダーゲーム」中川ヒロシ
町で最初のインベーダーゲームは、
森フードセンターの軒先に設置された。
森フードセンターは、森ミカの自宅で、
僕達は、インベーダーが好きで
森ミカのことも大好きだった。
森ミカは、
ヒッチハイクで京都まで行ったことがあり、
その時にセックスしたというウワサがあった。
そのウワサで森ミカを魅力的に感じていたが、
そのウワサは、そもそも僕が考えたのだ。
部活の帰り、
いつも森フードでインベーダーをやって、
その帰り、帰りでも帰らないから、
森フードの裏の空き地で
いつまでもみんなで話した。
田中君が自分で話してる怪談に飽きて、
森ミカの声をまねて言う。
「私達もう中二よ。
セックスしたっておかしくないわ」
それを聞いていた河野先輩が、
「そりゃ俺だってセックスしたいよ。
そやけど我慢しとんのやん」って言って、
河野先輩が言うと大人な感じして、
なんかカッコ良くて、僕も先輩の真似して
「そりゃ俺だってセックスしたいよ」
って叫んだら、みんなが
「そやけど我慢しとるんやん」
って声そろえて言って、
いい感じして、
何これ?
コール&レスポンスって言うのこれ?
俺、これ将来、絶対歌にするって思いながら
何回も海に言う、みんなで!
「そりゃ俺だってセックスしたいよ」
「そやけど我慢しとるんやん」
「そりゃ俺だってセックスしたいよ」
「そやけど我慢しとるんやん」
この前、帰郷した時、
森フードは寂れながらまだあって、
森ミカは今も実家にいて店番をしていた。
森フードの前の川に、
おたまじゃくしが今もいっぱいいて、
僕は石を投げ入れた。
おたまじゃくしが一斉に動いて水を汚した。
中学の時、
面白かったそれらのことを
もう一度やってみるけど、
面白いのかどうか今はわからない。
いつの間にか激しく雨が降っていて、
車が水溜まりの泥を跳ね上げる。
僕の顔に泥水が飛んで、
それを手で拭きながら森ミカに言う。
「俺、おまえとセックスしたかったんやで」
「ホント?」
「嘘」
河野先輩は、結局学校の先生になった。
田中君は土建屋で七億円借金がある。
高田は工場をいつも辞めたがっている。
服部は過労死した。
林は「障がい者手帳を取得した」
なんて得意気に言う。
僕は本当に少しの間だけ、
売れないバンドで歌った。
インベーダーは、森フードの軒先で、
野菜くずを置く台になっていた。
今、丸太のような健やかな時を経て、
ここに来たと思えない。
どこかで乗り換えた気がする。
そしてまた乗り換えるような。
それがなぜだか、わからない。