「ガガリン団地」武田地球

2024年04月06日

ガガリン団地に住む少年はいつも遠くを見ている
雨の日と晴れの日と曇りの日があり
遠くを見ていると負ける気がしない

信じていた人に裏切られたことがある
手紙を全部捨てられたことがある
切符も破り捨てられた
それからなんだかわからなくなった
生きることはわすれなかったが毎晩夢の中で犬に追われた 

ガガリン団地には階段がある
階段は低いところから高いところへと続く
少年はどこまでも昇って行ける気がした
けれどどうしても5階以上へは行かれなかった
手すりはペンキが剥げ落ちている
それでもこの街が一望できる
空にいちばん近いのに
どうしても5階以上へは行かれなかった

少年は階段に座る
黙ったまま日清のカップヌードルを食べる
その一瞬
太陽はガガリン団地を照らす
少年を照らし、カップヌードルを照らす 







武田地球