「コンプラ勝負だ」渋澤怜

2021年09月26日

コンプラ勝負だ


「今日の日替わりランチは、もこもこです」
「もこもこ?」
「いえ、ロコモコ丼です」
「そぼろ丼?」
「いえ、ロコモコ」
「ポモドーロ?」
「......お客様、よくオ段の食べ物だけでそんなに踏めますね」
「腕に覚えがあるのでね」
男は腕をまくりあげ「覚」の入れ墨を見せた。
「『貢』......? ああ、『覚』」
「だいぶ見間違えるな。腕に貢のあるラッパー嫌だろ」
「ラップ業界に貢献したいのかなと。でも、まあ、いいんじゃないですか腕の一本や二本」
「おい」
「マイク一本で勝負できるんでしょう」
「確かに障害者ラッパーというジャンルはおいしいかも」
「おっとそれはコンプラ」
「おっとこれは天ぷら」
「あちらのお客様からです」
「普通それ液体でやるやつじゃない?」
「期待してました?」
「答えになってなくない?」
「固体にはなってますよ」
「なるほど、君は目だけじゃなく耳も悪いってわけだ」
「しかし、いいこともありますよ、あちらのお客様が大変美人に見える」
少し遠くの席からこちらに向かって手を振っている女性がいる。
「ファンでーす! ずっとフォローしてました! 天ぷら、お好きですよねー! よかったら天ぷらで踏んでくださーい!」
「デブだ」
ラッパーは天ぷらを踏みつぶし、店を後にした。











渋澤怜