「サキ」馬野ミキ

2023年05月05日

雑司ヶ谷のアパートが取り壊されることになり
二十歳そこらで自分は池袋の路上に住まうことになった
いまタクシーが溜まってるとこさ、中央に花壇なんかが備え付けられたロータリーがあって
その花壇を取り囲むよふに石のベンチがあってそこで寝泊まりしてた
俺だけ特別に若かったので大概かわいがられた
西口と東口の路上生活者によるマクドのゴミを巡る抗争
その和解
俺は夜になるとそこで歌ってた
バブルがはじけた後だがそれでもあの頃、毎日斜向かいの銀行に小銭を貯金しにいってた
PUNKSの女友達が訪ねてくる
「ミキくんちょっと臭うよ」
その子暫くして、高円寺でライブの後にレイプされたと言ってたその子の友だちが

夜は冷えるので歩いたりした
豊島園まで歩いたりした
朝になって駅のシャッターが開いたら構内で眠れる
豊島園で「仔猫差しあげます」という電柱に貼られたビラを見て仔猫をもらった
猫は場所になつくなから、浮浪者みたいにあちこち移動してはいけないよと元バンドメンバーに言われた
東口の乞食のリーダーがある朝、俺をどなった
「あんちゃん猫どこいったんや!!」
俺の胸の上で眠っていたはずの仔猫がいなかった
この人は俺がいつも歌う場所に他の路上ミュージシャンが来ると
「ここは兄ちゃんの場所だ どっかいきやがれ」と怒鳴ってくれたりした
俺はここは誰の場所でもないですよ、と路上ミュージシャンにあやまりにいく
そうするとああいう好意は受け取っておくものだよ、とルンペンの幹部に言われた
情報筋によると、ウエストゲートパーク近辺でホステス風の女性が俺の猫を持っていてたという
夏が終わるころ、池袋西口の情報量の多さに疲れ
リブロ前に寝床を移動していた
或る夜、1人の少女が俺の枕元に立って
「みたことがある」と言われた
俺を彼女を見たことがなかった
この頃俺はまだ、精神の異常という概念を知らなかった
そういうことは自分とは別の世界の出来事だと思っていた
そのまま俺たちはラブホテルに泊まり、何もしなかった
はじめ下心はあったが、行徳のイラン人にやられすぎてまんこが痛いと言うので二人で寝た
翌朝ホテルを出てカラオケに行った
サキはすごく歌が下手で歌いながらよく泣いた
俺はこの少女を保護することが出来ないだろうと思い、いつまでも二人でいることを怖くなって、池袋の街でサキをまいた。




馬野ミキ