「セクキャバ、テロル」馬野ミキ

2022年01月13日

本命のAちゃんからのLINEの返信は途絶え
対抗のIちゃんは月曜が休みであるということで
俺とつるぴか丸先輩は間抜けな昼下りを、その中華料理屋のカウンターで過ごしていた
一通り夕方まで三時間飲んだあと
俺は新宿を何周かした

パンチコ屋で糞をしウォシュレットでケツの穴を洗い
無料風俗案内所で煙草を吸い
知り合いのゴールデン街の店を探したが1月3日はまだほとんどのお店が休んでいる
花園神社には参拝客が列を成していた

さなに、連絡を取る
黄金の太腿をもっている
ヤフーのフリーメールで七時からオープンだと連絡がある
俺は新宿をもう一周した

S線に揺られてM駅へ
開店一番にさなを指名し
お化け屋敷のような薄暗い店内で俺はセブンスターに火をつけた
マッチ売りの少女みたいに何かその度に新しい世界がみえたわけじゃないが

さなの黄金の太腿はすっかり冷え切っていた
1月にワイシャツとパンツではコウテイペンギンでも寒かろう
正月は田舎の九州に帰っていたそう
帰ってえらいじゃん と俺は言う
東京の方が温かいと さなが言う

T中を殺せばいいんじゃないかなとさなが言う
俺は政治に明るくないが、表現活動に疲労しておりテロルもありかなあと思ってた
と言って
別途料金になる1000円のドリンクで乾杯をした後、
さなを腰を抱きよせ
暴力について話そう
と 舌を絡ませないキスをした

よいライブをしても よい作品を展示していも 誰も見ていない
社会が変わるのは額縁のなかにおえめられたアートではなく
誰もが様子見をしてスルーできないような
実質的な事件であろう
どのようにして法律や社会が変わったか思い出してごらん
ぜんぶ事件なんだ
権力者が美術館やライブハウスに行って心を動かされたりすると思う?
行かないんだよ そんなところには

ばかだから
事件が起きないと分からないんだ

さなは元美大生で今はブラックなIT企業に勤めており、夜はたまにこういったお店で働く
男に触られることがとてもいやだそうだ

三年前に別れた男に いまだに憎悪の念をいだくのだと さなは言う
彼の最後の言葉が さなをてってい的に傷つけたのだと

薄い水割りをお代わりしながら酔った勢いで そいつ、殺してやろうか?
と言ったら
殺さないで、でも目をつぶしたりはしてほしい 
と、さなは言った

テロリズムには計画性が必要だとさなは言う
日本刀を使う事 同日に要人を数人殺ること、スポンサーと実行部隊の確保に一年かかるかなと俺は言った
日本刀って扱いが難しいんだよとさなが言う
実際、五人中二人しか殺せなくてもいいんだよ 社会に与えるメッセージ性が重要だからと俺は言った

さなは、私は捕まりたくはないと言った。