「ドモリスターズ」ヒラノ
「あの、大補君って良い人ですよね!
「ヒラノてめぇ!ほんと気をつけろよ?!アイツはなぁ、大補はなぁ!道玄坂のコンビニの前でバーベキューする様な奴なんだぞっっ!」
そんな角度で怒られるのは初めてだった。大輔君は良い人だという素直な僕の感想は俺の先輩であり大切な友人のKABの怒声でかき消されのであった。
今の渋谷のアンダーバー、ゲームの前身であるアースリーパラダイスでのショーケースの帰りの話。イナバ物置の四隅の柱が同時のタイミングでグンニゃリと曲がるような衝撃が走った、イナバが潰れちまった。70人もまだ載っちゃいねぇ。ウソだろ?っていうぐらいに。「フニャン!」
その翌々週ぐらい経った時に、良太君の実家で大補君と僕の当時の彼女と一緒にきちんと挨拶をする機会がやって来た。
「ダっ!ダっ!ダっ!ダっ!ダっ!ダダダダイスケdeath!」
大介君は吃音だと、僕は彼女に伝えていたが、想像以上のパワープレイに僕ら二人は打ちのめされた。ウージーなのかイングラムなのか。機関銃の様に吐き出される最初の一音。
真面目で良い人だ。そしてバカだともわりとすぐに分かった。5分もかかってないと思う。180cm以上の体格に茶髪のアフロヘア。
大輔君、ドモリスターズのMC、ダイリバー
ダ・イ・リ・バー
ん?大川さんと言うことか?
「大補君て、苗字は大川さんなの?」
そう聞いた俺に大補君はこう説明した。
「オっオっオっオっオオっオオ!オレ、」
「イっ!イっ!犬が好きで!」
「だから、ゴゴゴっ、ご、ゴールデンレトリバーがスス、好きで!」
「大介大好きレトリバーで、ダっ!ダっ!ダっ!ダっ!ダっ!ダダダダ!ダイリバーになった!」
「大輔君、犬になっちゃったの?」
バカ正直から正直を差し引くと…
事態は深刻だ。ご存知のように、本当の失笑に笑顔は無い。
当時、僕らはDJBC、RYOZZA、KAB、そして僕A-smog、この4人でジャイアンと名乗って日本語でラップをしていた。
とある年末、良太君の家でジャイアンの名にちなんだ楽曲が欲しいとの話になった。すでに「get down!ジャイアン!リサイタル土管(ドカン!)」というフックを配したタイトル未定の曲を用意していたのだが、もっとドラえもんに寄るべきだとの会議の結果から「なんかドラえもんの音源って誰か持ってないのかな?」という話になった。
「オ、オ、オレ!俺!、先週のドドドド、ド、ラえもん、ロ、録画してますよ?」
大輔君だった。
雷に撃たれた気分とはこういうことなのか?セ、セ、セ、青天の霹靂…
ビリビリ来んだろ、マジで。
なんで二十歳も過ぎてドラえもんを録画しているのか?その日、僕はボーイズクラブである縦社会の付き合いの仲で初めて先輩にタメ口を使ってしまった。
「お前、アタマおかしいんじゃねーの?」
正月、VHSのブツを大補君から受け取り、良太君の家で2人で大補君が録画した年末のドラえもん祭りを見る。すっげぇ面白かった。ジャイ子が同人誌を作るにあたり、パートナーである友人男性と軋轢が生じ、ジャイ子を案じるジャイアンが元気を無くす。そこでスネ夫が自殺的とも呼べるジャイアンリサイタルをスネ夫企画で例の空き地で開催し、ジャイアンを元気づけようという驚きの内容だったのだ。
何だよ、この神回?
「ジャイアンのリサイタルで盛り上がろう!」スネ夫が土管に座り気を吐く。すげぇ!こんなの見たことねぇ!
肝付兼太によって吐き出されたその台詞は、良太君ことRYOZZAの手によってAKAIのMPC2000にサンプリングされ、ビートを被せ、僕らジャイアンの出囃子となった。
その後、大輔君はゴールデンレトリバーが好きだったのになぜかコーギーの仔犬を品川区のペットのコジマで購入、ダイリバーからダイコーギーへの名称変更に葛藤しつつもダイリバーのまま、活動を続ける事になった。
大補君の創作活動はさらに活発になる。そして、ジャイアンのメンバーである良太君も実は吃音であった。僕らジャイアンの活動も中途半端なまま、大補君と良太君は意気投合、2人でドモリスターズと名乗り逆ナンしてくれと毎週末、渋谷でマイクを握ることになった。
僕の二十代というのはかようにして過ぎて行ったのだった。ビートとライムとマリファナとドラえもんのポケットからのウィット、トランクスに忍ばせたブラント、たまにエクスタシーと謎のリキッド、スニーカーの爪先から不思議なキノコ。
誰が本気で、誰がマジか?何がどうしてイカれてんのか?イカれてたら良い詞が書けるのか?ネタやってりゃアーティストのフリ出来るのか?アーティストってなんだ?依存症の総称か?幼い判断…
ある日、ふと大補君を思い出した。当時のエピソードをツイートしたみた。知り合いが道玄坂のampmの前でバーベキューしていたと書いたら「それってダイリバーですか?」と知らない人から返信があった。
あの人、本物だ。あんなパンクス彼以外に会ったことねーよ!
He is the mad.
準備しろ!火を焚べろ!炭を足せ!ヤバい一行を捻り出せ!
大補君、俺はここにいる。まだ、居る。
僕は、貴方の事が好きだ。
最後まで読んでくれた貴方の事もね。
そんでさ、今年はどこでバーベキューやろっかね?