「パンのミミ」 武田地球
2024年03月18日
駅前商店街の右側にあるパン屋には
時給200円で働く女がいる
いつも怒られてばかりで
それでも
神様の気分がいい日には
パンの耳を貰えたりもする
仕事終わりの帰り道
女はスキップをしている
人間にうまれたのだから
一度くらいは遠くへ飛んで行ける気が
どうしてもしてしまうのだけれども
いつまで経っても女は
すこしも飛べないままだった
ミミ!
女は
ちいさな袋に入ったまだすこしあたたかいものを
生きものみたいな名で呼んだ
そのときたぶん
自分が呼ばれたようでうれしかった
信じられないかもしれないけれど
昼の空も夜も見たことがある
どちらもとても、遠かった