「冬のはじまり」山本恭子

2024年09月27日

気配に満ちていた
夏から秋へ
音は空へ吸い込まれ
長い冬がはじまる

夏のあいだ
一日に3メートル伸びるつる草もある
冬になると
目に映る景色は変わらない
モズや冬の鳥だけが声を響かせる

霜が降り
雪が降り
吐く息は白く
手足はかじかむ
気をつけていても猫背になり
身体がこわばる

足元を見れば
土にマメ科の草がそろり
腕を伸ばし
顔を上げてみれば
すっかり葉を落とした

こぶしの枝先に
固いちいさな芽が膨らむ
水は氷の下でも凍る土の下でも
動き続け
命を育む

わかりやすさのかげに
真実が宿るように
春はすでに
はじまっていた



2023年1月30日、南千住の泪橋ホールでピアノを弾きながら読んだ詩を、何度か手直したものです。
それより数年前、3年ほど参加していた渋谷の教会のゴスペルバンドで演奏した帰り道に浮かんだメロディを慌てて駅近くの喫茶店に入って譜面にしました。教会の演奏は2日で5セット+リハというなかなかハードな活動だったので少し不思議な状態があったかもしれません。ちょうど持っていたカシオトーンにイヤホンを差して、何度も確認しながら。そうしてできた「冬のはじまり」という曲を毎年秋になると、誰かと一緒に、あるいは一人で演奏してきましたが去年初めて詩を書くことを思い立って書いてみました。
この1月30日はロバートDEピーコというバンドで10年近く一緒に演奏してきたぺぺ長谷川さんと一緒にライブをした最後の機会でもありました。前日、馬野ミキさんの企画にロバートDEピーコは参加し、今はミキさんとも一緒に活動しているというのも不思議な縁です。




山本恭子