「凍った子ども」馬野ミキ
2021年12月31日
酔っ払った父が
母に暴力を振るっていたことについて
四十五年後に
泣く
当時ぼくは、
感情を乱さなかった
自分の感情をどこかに冷凍保存して、平静さを装っていた
何も起こっていないような顔をしていた
自分が感情を取り乱すことによって
状況が悪化すると判断したのだ
二人がぼくの目のまえでセックスをしていた時も
ぼくは笑顔でいた
ぼくは
無視されているのに
父と母の意見が揃うのは
ミキは賢いということについてで
自分は大人びていた
大人たちの意向を素早くくみ取った
小学校にあがる前に日本地図を暗記し、書けた
そういう時、父も母も笑顔で
せかいが統合された
風邪をひいて
ぼくが熱でいる時
父は
ミキは甘えているだけだと言って
母は
父の暴力を恐れて、ふたりはテレビの映画を観ていた
冷凍保存されたぼくの子どもはいまも健在で
四十八歳としてはすごく子どもびている
でも本当は、お母さんをたたいたりしないでほしいって怒りたかった
お母さんをけったりしないでほしいって泣きたかった
お父さんもお母さんもぼくを無視しないでって言いたかった
子どもだからって分かっていないと思わないでって分かってほしかった