「夏」大島健夫

2022年07月26日

夏が広がり、夏が降ってくる

夏が沈み、夏が溺れる

夏が腐り、夏が光る

夏が滑ってゆき、夏にぶつかる

夏に摑まり、夏にもたれかかる

夏は暗く、夏は澄み上がっている

夏は薄く削られ、見渡す限り夏

夏に欲しがり、夏は消えていく

夏は這い、夏は倒れる

夏、飛べない

夏、私はあなたからの電話に出ない

夏、震えは止まるか

夏、なりすますなら誰になりすましたいの?

夏は足の甲に穴をあけて入り込み、はるかな頸椎を目指す

夏には誰もおらず、夏の名前を考えるワークショップは満員

夏の前に夏はなく、夏の後にも夏はない

夏の尻尾に乗って、弔辞と祝辞が戦う

頬をなでる偽物の夏と、顎を殴る架空の夏

夏のことはよく知らない

夏は私のこともあなたのことも知らない







大島健夫