「夢のノート」 中川ヒロシ
2023年03月01日
ホームルームの時間に
「将来君たちが本当にやりたいことを
ノートに書きなさい」
と言われた。
僕はどれだけ考えても、『登山の後デビットボーイと一緒に、露天風呂を探して雪あかりの道を辿っているところ』しか浮かばなかった。
『山の露天風呂には、年配の男性がいて、僕が入ると「悪いけど妻を連れて来ても良いかい?」と言う。
振り返るとデビットボウイはもういなくて、僕は一人で照れて黙った。
やがて奥さんがやって来て、裸の僕は
恥ずかしくて、背中を向けて口笛を吹いた。
「ごめんなさいね坊や、その曲なごり雪でしょ、私も好きよ」
そう言って奥さんは湯に浸かりながら小声で歌った。
僕は黙って星空を見ているふりをした』
そんなところを、教室で想像した。
ノートはいつまでも白紙だった。