「太陽悪、愛の嵐」湯原昌泰
陽物などという言葉もあるがさておき、すべての男の体の中には太陽が宿っているとして、その太陽に縦1.8センチ、横1.5センチのイボができた昌也はもう人前で裸になることはできない。だってとても大きいから。だってとても黒いから。ならば俺はこの先二度と誰かに本心を見せる事はないのだと知ってひとまず、六ヶ月洗っていなかった鍋を洗い、七ヶ月洗っていなかった風呂を掃除した。外ではセミが生きる生きると鳴いている。イボも勿論、生きる生きると盛り上がっている。
5回ヤカンで湯を沸かし、鍋、包丁、まな板などの煮沸消毒を終えて今、哀れな一物を見改め、こんなに黒々と盛り上がったものの中に悪が無いとは思えなかった。連日の劣情が原因であるのは間違いない。イボができている部分はいつも手が当たっていた部分だった。ならば力、それは悪である。数、それも悪である。では 一人、まさかそれも悪なのか?
昌也はネットで「イボ 除去 費用」と調べるがしかし、例に出ているどれよりも昌也の悪は巨大であり、一体いくらかかるのか、正確な金額はわからなかった。1センチで3万ならば2センチでは6万だろうか。それとも1センチ以上は個別対応で、いやぁこいつは極悪ですねぇ。これだと10万円ですかねとなるのだろうか。いずれにしろそんな金が余っているほど俺は不真面目に生きていないと思い、真夜中ならばバレないか。誰もが寝ている今ならば、痛みも俺に気づかないかと、つまんで鋏をあててみる。
だがそんな勇気があるならば俺は俺ではないし、悪もここまで育たなかった。この異物の栄養はすべて俺が俺であるからである。好きな人に好きだと言わず、納得のいかないものにじゃあそれでお願いしますと言い、悲しいことがある度に、苦しい辛いと擦ってできたこの悪を、俺は愛することができない。ならば誰の前でも脱げるよう、俺は俺を治すのだ。そう思って一ヶ月後、昌也は病院に向って歩を進めた。女性しかいない皮膚科に入り、問診票に陰部にイボと書き、陰に陽、名前を呼ばれて診察室に入り、事前に消臭スプレーを振りかけまくった股間を晒すと、こいつぁは大物ですねぇと女医に言われ、液体窒素で処置しましょう、料金は一回1000円です。えっ、1000円ですかと問答し、そうか、俺を治すのにかかる費用は一回1000円かと情けなく、そうだよ、困ったことがあったら誰かを頼ればいいと幾分明るい気持ちになって病院を後にした。自分で鋏を持ち出す必要などどこにもない。外に出た先でふと男と肩がぶつかった。男は痛ぇなと昌也に言い、昌也はすいませんと謝った。