「屋上」山本恭子

2024年10月24日

屋根の上には空があったはずだった
幼い頃の私は下ばかり見ていたようだ
その家から空を見上げた記憶がない
二階建ての屋根の上に登ったこともない

引っ越した先は坂の途中
くすんだピンク色したマンションで
屋根瓦などなく
六階の上にちょこんと銀色の短いハシゴが見えていた
エレベータは人の住む階までしかなく
非常階段は非常時以外、閉じられていて
ハシゴのあるところへ行ったことはない

煙突掃除、魔法使い、サンタクロース、大泥棒、スパイ、探偵、恋人たち・・・・・・
外国映画の舞台に屋上は欠かせない
屋根裏部屋も魅力的だ

カレコレ十年来のトモとなるレイさんとシゲさんが
SNSに古本市めぐりのような投稿をしはじめた
と思っていたらまもなく
「本屋を始めました」
小さな本屋であることを
日頃控えめなうえにも控えめな彼らが
アピールしだしたので注目した

本屋に屋上があるやら
屋上に本屋があるやら

二人が亀にゾッコンなのは知っていたし
本や小商いと聞いても違和感はない
311によって引き合わされ
オザワケンジの武道館やゼップトウキョウで顔を合わせた

はじまりがそうであったように
ほとんど約束をして会うということがない
家が近いわけでもない
妙なところで再会する

高円寺のカフェ、煮えきらない名前の居酒屋、河原、盆踊り会場、田んぼ・・・・・・
要するに私がへんてこな場所でばかり活動しているせいもあるけれど
屋上の本屋
とりわけ妙なところに二人は店を構えた
よもやアマゾンで遭遇したって不思議はない

友達が書店を開く
コルシア書店を思わずにいられなかった

古めかしいちいさなビルの入り口には
123ビルヂングのレトロな文字
四階までひといきに階段を上がると息が切れる
目を落とせば階段に本が並びはじめる
目指した本屋を素通りして屋上へ踏み出す

雨でない限り 雨だったとしても
なにもない屋上へ
なにもない屋上から
空を眺め
街を眺め
川を見下ろす
自動車と飛行機が自分の目の高さを行き交う

なにもしないでいい
なにをしてもいい
本を選ぶも 選ばれるも
本なんて忘れてしまうのも
じゆうーーー



「屋上・続き」屋上ですごした12時間~kamebooks閉店の報に触れ

ずっと
空を眺めていた
夏のような日射し
夕暮れの太陽
星の浮かぶ夜空

見下ろしたいんじゃない
ただ
見上げたいんだ

もっと空の近くにいたい

地上から見る空も
4階の窓から見る空も
同じ空
おなじそらのようで
屋上から見上げる空は
ゴクジョウ、格別なのだった
天国にちょっとお邪魔した気分

高所恐怖症の店主に感謝



補足
2024年10月13日日曜日 馬野ミキ・kamebooks共同企画
オープンマイク、ライブ、屋上野宿
出演
・ジュテーム北村
・ロバートDEピーコ(ハヤシヒロシ ソロ)
・山本恭子+馬野ミキ





山本恭子