「当たり前のうた」松本暁
2021年12月10日
当たり前のことを言うんだ
メシを食わなきゃ腹が減るし
夜には眠くなるものだ
誰も否定ができないことを言うんだ
夏は暑くて汗が出るし
寒い冬には厚着するんだ
当たり前のことなんだ
叩かれれば痛いし
ひとりぼっちは寂しいんだ
愛想笑いはめんどくさいんだ
ムカつく相手にペコペコしたくないんだ
惨めな気分はいやなんだ
そうだ
当たり前のことなのに
どうして恥ずかしがっていたのだろう
お金がないのはつらいんだ
病気のときは病院に行きたいんだ
老後のことが心配なんだ
子供は健やかに育てたいんだ
働くために生きるのではなく
生きるために働くんだ
勝手なルールを決められて
どこかの誰かに押し付けられたくないんだ
自分の人生なのだから
こんな当たり前のことなのに
代弁してくれる人は少ないんだ
偉い人が言うのはますますレアだ
たとえ言っても打算ばかりだ
当たり前のことじゃないか
嘘をつくのはいいことじゃない
自分さえよければはみっともない
自由があるに越したことはない
戦争になんか行きたくない
僕は僕で僕なんだ
あなたはあなたであなたなんだ
僕らはそんな当たり前のことを
当たり前に言ってきただろうか
胸を張って話し合ってきただろうか
当たり前のこと過ぎて
かえって口ごもってきたんじゃないか
他人任せにしてきたんじゃないか
当たり前のことが当たり前でないのは
本当はおかしなことなんだ
当たり前のことじゃないか
おかしいことはおかしいんだ
だから僕は
当たり前のことを言うんだ
止むに止まれぬことなんだ
当たり前のことなんだ