「悪霊」構造
2021年09月29日
「悪霊」
化繊のお守り袋は昨日あっさり燃えた
神社の名前だけが間抜けに残っている
二日酔いをもよおしながらおれは
出涸らしのティーバックにぬるいポットの湯をそそいだ
カップにこびりついた牛乳の被膜が
中身を真っ白にした
熱気がこもる流し台へ捨てたあと
できてしまったもののように
悪霊がやってきた
おれは悪霊を背中にしょった
「いくよ」と悪霊
どこにだ
「いくんだよ」
おれは一度ベランダに出て煙草をすった
窓越しに俺は寝ている子供のぐしゃぐしゃの髪を見る
こないだ風呂入れたときに
「ぼくのあたまをわると
百円玉がむりょうたいすうはいっているよ」
とかしゃべらせたのはお前だな
「そうだよ」と悪霊
おれが仕事をしようというとき
どこかへ旅立とうというとき
わらって足にしがみつき
それはばいきんまんのディティールに比べれば
たいしたことがないんだと言った
ほんとうにほんとうにおれのあらゆる行動を
邪魔する人間として
存在してくれてありがとう
「ジュースが飲みたい」と悪霊が言った
おれは頭をかちわろうとする
悪霊と交渉をした。
「子供の髪の毛を切って
国道四号線にばらまけ」
アマゾンの配送員がやってきたとき
あるいは消火器の販売員がやってきたとき
深い暗闇のはるか後ろ
空気の中に埋葬された俺は
このマンションのドアホンに
トラッキングノイズとして映ることができる