「数」 河野宏子

2024年05月29日

弱りきった小鳥が
ほとんど落ちるようにやってきたので
手のひらに載せて看取った

わたしの命は星の命
これまですべての産んだ数
死んでいった数を数える
そのひとつひとつに涙をこぼしてきた
わたしは
産み続けるからだ
枯れないからだ
閉じないからだ
悲しい永遠

まだ温かさの残る小鳥の額を 薬指の腹でなぞる

あの子は地雷を踏んで死んだ
あの子は逃げるのが遅くて死んだ
あの子は爆撃で死んだ
あの子は腹を空かせたネズミに食われて死んだ
あの子は焼けた柱の下敷きになって死んだ
あの子は生まれてきたことすら誰にも知られずに死んだ
産んだわたしだけが見ていた
全部覚えている

死んでしまったどの子も
もう二度と産めない

わたしの背中にはもう一人わたしがいる
赤い口紅をひいて
足にキャタピラを履いて
死んだならまた産めばいいとか
なら産まなきゃいいじゃないとか
大きな声でケラケラと嘲笑う

足元の花の根っこに埋めた小鳥の墓を
キャタピラで踏んで 過去の過ちへとつき進む
もう一人のわたしは 数が数えられない
産むときの痛みも忘れるのかもしれない
だからそれぞれに名前をつけることもせず
同じ名をつけ続ける








河野宏子