「早く帰れよUFO」ヒラノ
UFOって見たことありますか?
僕は幽霊だの地縛霊だの守護霊だの、見たこと無いし、いるのかもしれないけどそういう類の存在とは無縁というか相手にすらされないと思っている
いるのかもしれないけど俺は用事は無いし、あっちだって相手を選ぶだろう
俺は低俗で脳に毒が回っている
幽霊がいたら俺にこう言うはずだ
「いや、あの、君じゃないから…」
高校二年生、オーストラリアへの修学旅行に行かせてもらった
九州への修学旅行組とオーストラリア組とで別れたのだが引率の教員を含め120人程度でオーストラリアに一週間滞在することになった
シドニーだとかキャンベラだとか行くのだが道中、週の真ん中あたりでど田舎の農場に泊まるという日があった
ほんと街灯も何も無い、柵すら見えない広大な農場に一泊する事になった
コテージが数十件あり各コテージに六人程度で振り分けられた
夕食を済ませ各々振り分けられた面子でコテージに収まる
二段ベッドが三台と昭和生まれならわかるバチバチテレビが一台
チャンネルを変えるのにブラウン管テレビに直接付いているダイヤルを回すという物が設置されていた
雑音と映像のノイズ、さらに3チャンネルしか映らないうえに俺達は英語がわからない
最初は皆して分かるフリをしたものの、本当は誰も英語が分からなかった
とにかくつまらない時間がやってきた
おまけに男子校だ、「お前は誰が好きなんだよ?」とかそういう会話は一切無い
ただただ理解出来ない英会話を垂れ流す映像ノイズたっぷりのテレビを眺め、ため息しか出なかった
万策尽きた、手段が無い、面白くない
だからなんとなくコテージの外に出た
怖ろしいぐらい星が綺麗だった
信じられないぐらい無数の、無数のってヤバいよ?
夜空に数え切れない数の星が瞬いている
天の川ってこれ?というぐらいとにかく東京で見る夜空の数十倍の星が光っている
宇宙ってすげぇな!こんなに星ってあるの?
17歳の生意気でエロい事しか考えてないクソガキ共が「うわっ!すげぇ綺麗!」と思わず声を出す様な状況だった
当時の俺らと言えばAV女優かヤングマガジンやヤングジャンプの表紙を飾るアイドル以外に綺麗なんて言葉は使わなかった
花壇の薔薇に小便をかけるような不届者だった
気がつけば皆がコテージから出て来ていた(どいつもこいつも英語が解らなかったのだろう)
酷い話、引率の教員まで出て来ていた、全員集合だった
すげーな!すげぇよな?皆で口を開けて空を眺めている
「あれ?」誰?俺?いや皆だった
蛍光灯の様な光を放つ星の一つが黄色から赤に、さらに緑に色が変化していく
「あの星おかしくねぇ?」皆が注目する、指をさす
明らかに色が変わるのだ
直後、正三角形にその星が動き出す
さらに正四角形に動く
もう俺達なんて空を眺めながら
ヨダレが垂れてる
100人以上の男子校の生徒が口を開けて夜空に釘付けになっている
大事件だぜ?
消えた?!
と思えば地上から見てだが、夜空の数メーター先にポンっ!と現れ色を変えながらまた三角だの四角だの動き出す
三角だの四角に移動するスピードは体感で1秒程度、その1秒でもって三角だの四角だの、色を変えながら夜空を移動する
俺達バカなエロガキ共は皆手を振り大声で「おーい!UFO!」だの「こっち!こっち!」だのワーワー騒ぎ立てた
(もし本当に降りて来ちゃったらどうなるのかは誰も考えていない、バカだから)
俺達の懇願とは一切関係なく色を変え怖ろしいスピードで三角だの四角だの消えたり出てきたりを繰り返す
思い返すと円形には一回も飛ばなかった
「ねぇ先生?あれって何ですか?」俺は数学担当の浦沢に聞いた
「ああいうのがUFOって、言うんだろうな…」
浦沢もよだれが口に溜まっていた
でもね、ここで妙な雰囲気が俺達全員を包み込む
なんと、飽きたのだ
ひたっすらに色を変え動きつつ、呼びかけには一切反応せずに夜空を飛び回る
ピュんっ!っていなくならないの、
ずっとやってるのよ
人間、ああいう不思議な事象、だからおそらくUFOにしろ幽霊にしろ、ずっと居られると飽きるのよ
想像してみて?
家を出てすぐ角に幽霊が見える
最初は怖いし驚くでしょうね
でもね、朝も晩も毎日、それこそ24/7、365日そこに何する訳でもなくただずっと居る
すると飽きて馴れてどうでも良くなる
青信号で進んで良くて郵便ポストはなぜ赤いのか?
そんな理由はどうでもいい、馴れるとどうでもいい
それを僅か20分程度で100人を超える高校二年生は知った
何の規則性も見出だせず派手に色を変えながら夜空をブっ飛びまくる未確認飛行物体
飽きるんだよ、20分ぐらいで
「なんか、もう… もう良くね?」
引率の教員も含め眼の前の異常事態というか緊急事態がどうでも良くなて皆コテージに戻って行ったのだった
翌朝の朝食、全員が広いホールで一緒にとるわけだが、
「昨日さ…」
「ああ、あれね…」
「あれUFOなん?」
「知らね…」
「っていうか、どうでもよくね?」
っていうか、どうでもよくね?
良く無いでしょうよ!
地球外知的生命体?新たな軍事兵器?はたまた…
とりあえずどうでも良い事は無いのよ、その目撃者は100人を越える
そんな事よりスクランブルエッグのケチャップが欲しい、塩と胡椒が欲しい、今は
どいつもこいつもだよ?
それ以来、UFO的な物を俺は見た事が無い
ふとあの夜を思い出した時、現実とリンクした
若い女の子に会いたくて飲み屋にやって来るオッサン
新進の男性アイドルに群がるオバサン
二十歳を過ぎた女性アイドルをババアと罵る気持ち悪いオタク
オバケが見える霊能力者
我が子の幼い時の記憶
これらの共通点って分かりますか?
「時間と共に消える」
消えない事には価値が生まれない、らしい…
時間によって削られて行く、蝕まれていく記憶、良く言えば思い出
日は昇るし、夕方には沈む
花は咲くがいずれ散る
俺の場合は?UFOは?
消えなかった、だから、飽きた…
ビジュアルで言うなら綿飴が濡れた、的な事で生まれる付加価値
これ、否定出来ますか?
もう、無いんだよ?
綿飴はもうそこに無くただ割り箸を握っているだけ
その上で遠く古い時代から残る寺社仏閣、巨大な建造物、絵画に楽譜、踊りにそして文章…
希望と祈り
家族との時間、友人との時間
これって何だろう?とてつもなく尊い物なんだろうな
帰らないUFOより
夜空を一閃する脳に、
心に突き刺さる一行
俺に書けるのだろうか?
書きたいな!書いてみたいよ!
もういいから!
いいから早く帰れよUFO!