「朝の光」 大島健夫

2022年05月21日

朝の光がカーテンを揺らす
この光は、昨日の光とどう違うのか
覚えていない、昨日のことは
明日はどんな光がさすのか
わからない、明日のことは
いま世界を満たすのは
ただこの光だけだ

隣の街も朝の光で満たされている
街と街の間の野原も朝の光でいっぱいだ
嘘に朝の光があたる
真実に朝の光があたる
嘘と真実が合わさったものにやさしさや欲望を振りかけた何かに朝の光があたる
人に朝の光があたる
人でない全てのものに朝の光があたる
今日、誰かが死ぬ
わたしたちとつながって、あるいはつながらず
その数だけがニュースになって
だが彼らは数字ではなく
この朝の光が訪れるまで生き続けたひとつひとつの命だった
今日、誰かが生まれる
わたしたちとつながって、あるいはつながらず
その数さえもニュースにならず
だが彼らは数字ではなく
新しい朝へと生きてゆくひとつひとつの命だ
わたしたちもいつかのある日にそんなふうに生まれた

この朝の光の中で
あなたが吸って吐く息のことを思う
あなたの心をかすめる稲妻を
あなたの魂に降る雨を思う
あなたのドアとわたしのドアの間の谷間の
広さや深さのことを思う
いま、手をつなぐことができないなら
このことだけは伝えさせてください
あなたが好きです
わたしたちの言葉は数字にはなりませんが
わたしたちの命のそばで、立ったり座ったりすることはできます

カーテンは朝の光に揺れている
ここはただの朝の光の中だ
これまでもここにもそこにもあそこにもあった
初めて訪れる朝の光の中だ







大島健夫