「朝食」コオリヒロノブ
2022年05月09日
今日の朝食は
この森の最も深いところにある
トーストと
スクランブル・エッグ
食後には白いカップのコーヒー?
でも、その一つ一つが
腹にたまるような、たまらないような
物欲しげな顔をして
僕たちはもうずっと長い間
重い便秘――に
閉ざされているような気がするよ
昨日より新しい会話
天国をなすりつけた食卓
幸福を支えるための悲惨探しのゲーム
――でも
それが飽きたら次はどうしようかしら
と
君が言う
一晩中テレビをつけて
爪が剥がれるほど掻き毟った透明さの向こうに
いったい何が見えるというの?
出てゆくことのできない画面の中
どこか遠く
海の向こうで
ひとつひとつ何かが滅んでゆくというのに
不機嫌なスリッパを履いて
ガラス張りの好奇心に
べたべたと指紋のあとをつけてゆくような
そんな
ほの暗い幸福を抱きしめていたい
僕たちがいる
つまりそれは、
空腹を満たした後の
食後のデザートを奪い合うようなゲームだった
万全な姿勢から
お目当ての料理に向かって
猛然とダッシュしたくせに
たどり着いたところで
何が食べたかったのか思い出せずに
君も
僕も
膠着状態に置かれてしまうんだ
マヨネーズをひりだすように
つるりと健やかな
そんなすっきり爽快なお通じのある朝を
もういつから迎えていないだろう
この小さなダイニングで
僕たちの世界は
ずっと前から行き詰まっていたのかも知れない
のだけれど
冬に向かう部屋の中
ストーブに火を入れる
生活
という名のテンプレートにつつまれて
僕たちがいつか歳をとってしまうまえに
森の奥底まで行き
二人でメシを食い
お茶を飲み
森の中で古傷に触れ合いながら、もう一度
一夜を過ごしたい
だけなのに