「生きてる鼠」みどりのおばけ

2025年03月08日
生きてる鼠が目の前を駆け抜けたから

あたしはほっとして
なんだか涙が出そうになった

あたしが殺した人のことを思い出した

最近は
鼠は死骸でしかあたしの前に現れないから

その子はとても可愛く見えた
はつらつとして
よく太って
お腹をたぷたぷさせて
目の前を横切った
希望に満ちた目をしてた
東京の鼠なのに

あたしもあんなふうにまたなれるだろうか

何があっても
瞳が爛々としてたんだ
冗談が好きで
よくコロコロと笑ったんだ

怖いくらいに怒ったり
人に優しかったり
花に笑いかけたり
乱視の目で東京の夜景を見て
世界の始まりを感じたんだ

ゼロの鼠のことを考えたとき
わたしの好きな男の子が
鼠を踏み殺していたのを思い出した
嫌々そうしていたのに
わたしは笑ってしまった
その業はとても深くて
だからあたしは
今でも鼠に願わずにはいられない

あの鼠に幸せな一生を送って欲しい
いつまでも野心のある目をしてて欲しい

到底敵わない夢
東京の鼠はみんな悲惨な末路をたどる





みどりのおばけ