「目にまつわる」恭仁涼子

2022年03月08日

本を見ていた。
雑誌かな。志賀直哉かな。
文字は、ただのすみで、すみっこにいた、
視界の、床を見ていた。
最近灰色に染めた髪が景気悪く落ちていた。
億劫。うちにはゴミ箱がないからだ。
ゴミ箱を捨てるのは骨が折れた。
なんせゴミ箱なので。
部屋が春霞に満ちた。
音を立てて床が剥がれ落ちていくようだった。
地べたに座りこんで蟻を見ていた。
あっこれは私が殺した蟻だ。
素が庭の美観を損ねたからコロリしたのだ。
罪のない虫けらの・・・・・・
・・・・・・けらってなに?
蟻は毛虫にたかっている。
毛虫はまだ生きてもがいているのに
問答無用で自分たちの巣に運んでいく。
生の営みとかいうやつは
こうして実際に目にするに限る。
うつくしい光景だ。踏み躙りたい。
我が子を見ている。
線香花火の先端を見ている。
はぜてる。













詩集「アクアリウムの驕り」より

恭仁涼子