「神様になりたい」春野たんぽぽ
2022年05月05日
中学生の頃、部活が終わったあとの唯一の楽しみはプレステの人生ゲームだった。
嫌味な顧問の文句も、いじめられているという事実を受け入れられない自分の情けなさも、進学も危ういバカさ加減も、全部、人生ゲームで職業をカスタムして神様になった自分には関係のないことだった。
神様になりたい。
帰り道、自転車に乗りながら何度も思った。何度も願った。
神様にして欲しい。
だけどいつまで経っても私はだらしのない、つまらない人間のまま神様にはなれなかった。
ある日、隣の席で私を罵倒して来る男子にもう我慢が効かなくなった。顧問が担当の授業だった。私はその男子の机を蹴り、その男子のことも無茶苦茶に蹴った。そのとき、私は勝てると思った。これで毎日の地獄から抜け出せると思った。
だけど、世間はそんなにあまくなかった。
私は激昂した男子にねじ伏せられ、その場に蹲った。誰も助けてくれなかった。教師さえも見て見ぬふりをして授業を続けた。
神様なんていない。
そんな確信を持った。
あれから十何年も過ぎて、私はすっかり大人になった。
神様なんていない。
そう思うことで救われるときがある。そう思うことで絶望するときがある。
神様になんてなりたくない。
今はそう思っている。