「禁治産者の余滴」村山トカレフ
「禁治産者の余滴」
新宿でM嬢の口中にいばりを注ぐ深更 イースター島のモアイはランチどきに降り注ぐ太陽におもてをさらしている
型抜きの合否判定が店主の気まぐれなのはおおいに結構だが 人の生き死にを気まぐれで決められてはどうでも業腹だ
コミュニケーション能力が高い奴輩こそが極めて鈍感であり 人を平然と傷つけるものだ
ロクデナシの魂百までも ロクデナシは生まれつきのものだからロクデナシのまま死ぬのが道理
ナミダがこぼれる正確な理由なんぞは 他人はおろか本人にだってわからない
ウスターソースなんて嫌いだと 泣きながらコロッケに醤油を垂らしていたアイツはもういない
イルカの無垢な気持ちを裏切らねばならないクジラの潮吹きには涙が混じっているだろう
ルールは絶対に守らなければならないと口角泡を飛ばすバカの飛沫にはバカウイルスが混じっているだろう
スルメは干されて旨味を増すが 人は干されると味と存在がなくなる しがむほどに無味 しがむほどに透明
はしごはいつだって昇る寸前で外されるか隠された あるいは存在自体に気付くことができなかった
思惑どおりに事が運ぶことなんて死ぬまでに1度あるかどうかだ だからおのれでコントロールできないことで悩むのはやめろ
想起しせりは我が人生と魔羅の不甲斐なさ 眩い希望とぬくとい若雌の女陰はいつだって遥か遠くで微笑む
ウィンナー・コーヒーなんてわからないと 泣きながらココアに砂糖をたっぷり入れていたあの子はもういない
イメージとは思考停止の始まりである 淫乱な処女や三段腹のマラソンランナーやカタワのカラスを想像できない
ルールは絶対に守らなければならないと口角泡を飛ばすバカの飛沫には畜群ウイルスも混じっているだろう
スープをひとすくいして他人の口へ注いだっていい 大事なことはその所作と思考が自然にできて湧くことだ
にべもないと胸中で舌打ちをしたが たおやかな身のこなしで落ちた小銭をひらったその様を見て舌舐めずりをした
変化を恐れるのは利権といふ春を手放したくないからだ 利権が希釈されてそれが平等に降り注ぐことに厭忌する
異形なるものの心根は繊細で優しくて美しい 剥き身になれない化け物の含羞はうまずめの慟哭と交差する
しかっめつらでデリヘル嬢に説教じみた苦言を呈している 放液後のおっさんほど醜いものはない
たまさかわき起こる抗えない春機と引き換えに おのれの寿命が削られているかと思ふと破顔してしまふ
分数の計算がわからないことと 他人の気持ちがわからないことはどちらのほうが罪深くてより非難されることなのか
断酒と断首は同音異句 蕭条の差があるが アイドルグループの卒業と馘首 パパ活と私娼 ぽっちゃりとでぶは同義だ
さだめし この痴愚なる狂騒は 奇跡的に均衡が取れていたものが本来の姿に帰した至極自然な事象なのかもしれない
れんこんの穴から宇宙を覗き見ることと かわいいあの若雌の吉舌をスカート越しに透視することは同じくらい困難である
ためつすがめつ掌を見たってウイルスは見えない 可視化できないウイルスに癲狂する愚昧な人間がウイルスよりも恐ろしい
我れ先に異物混入しせり毒液に群がるその様に嘆息を吐く初秋の夜 蜘蛛の糸の先に安寧はない 必ず切れる
ら抜き言葉とワサビ抜き寿司のマヌケさは 電子タバコとノンアルコールビールのだらしなさと未練がましさよりは幾分かマシである
のり弁にカップ麺とビールを付けて奢侈だと欣々とする人が好きだ 窓外から街を見下ろす場所で蟹文字這うメニューを見ている人は嫌いだ
行路病者の襤褸の懐中から金貨が見つかったとすれば それはプリミティブな色即是空である 実像ではなく遠方より照射された映像
くじ運が強いといふことと ロハで魔羅を女陰にねじ込めることとは同義ではない 前者は生気が影響して後者は性器が影響するからだ
末明とはやたらと事件が起こる時間であるが 素晴らしい夢を見ることができる時間でもある 久しく飛ぶ夢を見ていないことに喪失感を抱く
はいチーズ!
といったら冷笑された 初めての交接の相手 母親ほどの年齢の夜鷹に仮性包茎の魔羅を剥かれた時より恥かしかった 死ね
メシの喰いかたで雌の素性がしれるやうに まぐわい後の雌の扱いで雄の素性はしれる 賢者タイムへの突入は延長に次ぐ延長でヨシ
アリの巣の前に弱らせたバッタを置く よってたかって噛みつかれ巣に引きずりこまれた 人は産声をあげた瞬間にアリの巣の前にそっと置かれるのだ
キチガイ、おし、つんぼ、めくら、かたわ、こじき、こびと、みなしご、ガイジン、おまんこがアウトでおちんちんはセーフなんてド外れた言葉狩りだ
とつおいつ考えてみたって詮無いことだ 産声をあげた瞬間に各人に台本が渡されるのだから だが降板はいつでも自由にできる
メイクラヴ 過日まぐわったデリヘル嬢のフェイスブックを探し当て そこに写る家族写真を凝視しながら手淫をしたのち自己嫌悪に陥る夜
クレイジーダイアモンド 邪王炎殺拳 北斗百裂拳 右手がミギー おれがいずれかの使い手もしくは有しているのならば日に3人は殺すだろう
ラムちゃんで夢精したことは恥ずかしいことなんだろうか?
優しい笑顔を見せてくれる相手に同等の笑顔を返せないほうが恥ずかしいと思ふのだが
がなる奴輩の口中に固めた拳をねじり込み 胃の腑でうごめく醜いあれやこれやの一切合切を掴み出してやり 慙汗をしたたらせてやりたい
やそジジイが信仰しせりは十字架青年に疑義を唱えた少女の女陰様 アラッーまあとカップ酒の向こうに顕れし乳房に目尻をさげる
みんなおれの仕業なんじゃないか?
数多ある悲惨で奇怪な未解決事件の下手人は ひょっとして自分なのではないかと思って身震いする
わたしだって!
おれだって!
と言い始めたら罵りループの始まりだ 深呼吸して素直に「ゴメン」といって抱き合おう ああ、そうだ言うのは雄からだ
だからいったろうやめておけって これはおれが何かをしたあとのもうひとりのおれのつぶやき 日にだいたい3回はつぶやかれる
でも いや だって それは違う いるよね必ず否定から入る奴輩が あなたは何を怯えているの?
まるで迷子のキツネリスのように
思い出とは補正と捏造がない交ぜになった極めて都合のよい だがしかし救いのあるフィクションである
想念を行動に移した時点で物事の半分は達成したやうなもの 至急子宮に戻る必要はなくなる瞬間である
のしを付けてしまった香典を 強張った表情でおずおずと差し出したケニアの留学生に罪はない
飛んで火に入る夏の処女 業火に焼かれし純粋な欲情と過剰な期待 閨事のあっけなさには思わず退屈の涙を流すだろう
沫きごときで簡単に破壊されてしまったボクたちのセイカツの奥底で 隠されていた臆病な「死生観」といふ肉叢が腐臭を放ち充満している
をもって終了とさせていただきます 丁寧でもあるし強引でもあるこういった文言に大衆はいつも搾取されている
飛ばすのは嘘か誠か飛沫か いずれにせよ身に覚えのないことに銭を払ったり謝罪をしてはいけない
ばかと思って見ている人間からはおれもばかだと見られている不思議 深淵をのぞく時 深淵もまたこちらをのぞいているのだ
すべては夢でしたといふ夢をたまさか夢みる 夢の中で夢中で繰り出す拳はおそろしくスローモーだが 現実では拳を繰り出すことすらできない
新しいモノは旧いモノがあるから生まれる 旧いモノは新しいモノが生まれて再評価されたりする 簡単に捨てていいモノなんかありはしないのだ
世捨て人を尾行して7日目の暁にそのドアは顕れるが ドアの出現を殊更難しくさせているのは尾行中に自らも世捨て人になってしまふからだ
界王神がどうでもフリーザ以下の強さに見えた月曜日のネカフェ 8個目のドラゴンボールをぼんやりとしかし必死に探す おれはいつも間違っている