「秋月祐一とけんごの短歌ワークショップ 〜はじめての短歌〜 第八回」秋月祐一

2023年04月03日

けんごさん、こんにちは。秋月祐一です。

第六回までのふりかえり、ありがとうございます。

>「読者の想像力を広げる」
>コレにとても特化しているのが短歌かな!
>とちょっぴり思いました。

そうなんです。南極とかの海面に出た氷山の一角をお見せして、
水中の氷の大きさを読者の方に想像してもらうのが、短歌の醍醐味です。

    *

けんごさんが短歌を演劇に例えていらっしゃるのも、うれしく思いました。
短歌は、脚本・演出・主演、さらには大道具・小道具・音響・照明までを
ひとりでこなす演劇にとても似ていると思います。

【原作】
天気雨濡れた背中を陽にあてて虹はどこだと自転車をこぐ

【改作案】
虹はどこだと自転車をこぐ天気雨濡れた背中を陽にあてながら

この例のように、視点をどこに置くかで見えるものが変わるという意味では、
カメラ(=作者の視点)の加わった映画に近いのかな、という気もします。

    *

できるだけ具体的で、手ざわり感のあるもの、の例として、
けんごさんが挙げてくださった

・お寿司食べて手についたお醤油舐めた味

・交通事故で車がぶつかった音

などは、誰もがよく知っていても、
短歌を書こうとするときに、すっと出てくるものではないでしょう。
けんごさんの感覚のするどさを示すものだと思われます。

    * 

【原作】

満月がひとりぼっちで歩いてる朝はむこうとつぶやきながら

月光が闇にもたらす静寂にこの身をゆだね朝を待つ四時

月明かり朝の光に消されてく夜を照らした君であるのに

やあみんないのちはたのしいかい?と聞く月の声色みえそうな夜

命さえ持つことのできぬ宿命をこの身に刻み夜の道行く

静けさを捨ててこの身を焼き尽くす私はいつか太陽になる

いつまでも交わることのない道を並んで歩く夜の道連れ

夜に生き命を燃やす人間と昼に生まれて燃えたかった月

けんごさんが八首書いてくださったようなものを、
短歌の世界では「連作」と言います。

けんごさんは、いきなり8首の連作を書いてくださいましたが、短歌を始めたばかりの方は、まず三首の連作を書いてみることをおすすめいたします。

参考例として、ぼくが初心の頃に書いた三首の連作を挙げておきますね。


【参考例】

地底湖に落としたカメラ ぎこちないきみの笑顔を閉ぢこめたまま

泥棒市場で買つた時計のうごかない秒針のこと、結婚のこと

大輪の花火はじける五億年後にぼくたちの化石をさがせ

(ルビ 泥棒市場=バザール)

    *

さて、けんごさんの連作を、一首ずつ見てゆきましょう。

>満月がひとりぼっちで歩いてる朝はむこうとつぶやきながら

「月」が主題の連作の導入として、とてもよいと思います。
月を擬人化するという技巧もさりげなく使われています。

>月光が闇にもたらす静寂にこの身をゆだね朝を待つ四時

作中主体(作者)が登場しました。

>月明かり朝の光に消されてく夜を照らした君であるのに

「月明かりは」と字余りになっても助詞を補いたいところです。
「月の明かりは」と初句七音にする手もあるかと思います。

>やあみんないのちはたのしいかい?と聞く月の声色みえそうな夜

とてもよい歌だと思います。
「月の声色みえそうな夜」も工夫を感じるフレーズですね。

>命さえ持つことのできぬ宿命をこの身に刻み夜の道行く

この歌の主体は「月」でしょうか?月の擬人化の歌の多い連作なので、
「命さえ持つことのできぬ」に違和感を感じました。

>静けさを捨ててこの身を焼き尽くす私はいつか太陽になる

この歌が連作のテーマでしょうか。
「(月が)いつかは太陽になる」という発想の大胆さに驚きました。

>いつまでも交わることのない道を並んで歩く夜の道連れ

「月明かり朝の光に消されてく夜を照らした君であるのに」という歌のあとに「夜の道連れ」とくるのが、ちょっと不自然な気がします。

>夜に生き命を燃やす人間と昼に生まれて燃えたかった月

連作のラストにふさわしい絶唱だと思います。

    *

これらの点をふまえて、並べ替えたのが下記になります。

【改作案】

満月がひとりぼっちで歩いてる朝はむこうとつぶやきながら

月光が闇にもたらす静寂にこの身をゆだね朝を待つ四時

いつまでも交わることのない道を並んで歩く夜の道連れ

やあみんないのちはたのしいかい?と聞く月の声色みえそうな夜

月明かりは朝の光に消されてく夜を照らした君であるのに

静けさを捨ててこの身を焼き尽くす私はいつか太陽になる

夜に生き命を燃やす人間と昼に生まれて燃えたかった月
 
(命さえ持つことのできぬ宿命をこの身に刻み夜の道行く、は除外)

夜にしか生きれられない月に、おのれの姿をなぞらえて、
いつかは太陽になる、昼に生まれて燃えたかった月、
という切実な思いを吐露した、重厚な連作になっていると思います。

けんごさん、いかがでしょうか?





秋月祐一とけんご